鞍馬天狗
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アラカンの映画で御馴染み、大仏次郎の「鞍馬天狗」シリーズは、長短47編からなる時代小説だ。この本はその全作品を執筆された順番に紹介しつつ、正義のヒーロー鞍馬天狗が何人の敵を斬ったかを考察した第1部「鞍馬天狗と遊ぶ」と、大仏次郎晩年の作品「天皇の世紀」と対比しつつ、フィクションである鞍馬天狗を幕末から明治という現実の時代の中に配置していく第2部「鞍馬天狗の歴史観」とで構成されている。
「鞍馬天狗」のガイドブックとして読むなら、第1部だけで構わないだろう。しかし「鞍馬天狗」を書きながら作者大仏次郎がいかに歴史と人間についての洞察を深めて行ったかを示す第2部こそが、この本の中で最も面白いものだと思う。大仏次郎の幕末・維新・明治観は、大正・昭和初期(戦前)・戦後と「鞍馬天狗」を書き進める中で大きく変化していく。歴史観の大きな変化は、そのまま鞍馬天狗というヒーローの人間的な成長となって作品に反映していく。尊皇攘夷と革命のために、敵の血を流すことに躊躇しない荒ぶる志士として登場した鞍馬天狗は、陰謀渦巻く歴史の中で、革命の大義と現実の狭間で苦しみもだえ、滅多なことでは敵を斬らなくなっていくのだという。
「鞍馬天狗」はこれまでに何度も映画やテレビドラマになっているが、この本の第2部のように大仏次郎の「天皇の世紀」と「鞍馬天狗」を組み合わせることで、幕末から明治の日本を描く大河ドラマが作れるのではないだろうか。鞍馬天狗は激動する時代の中で右往左往しつつ、自分自身の生きる道を模索する狂言回しだ。鞍馬天狗の味方である薩摩の西郷隆盛(「鞍馬天狗」の中の西郷像)も、じつは陰謀によって倒幕を企てる狡猾な政治家としての側面を持っている(「天皇の世紀」の中の西郷像)。歴史の裏と表。本音と建前。革命の理想とテロリズム。そんな矛盾を一手に引き受けつつ、それでも目の前の敵を斬り伏せながら新しい時代に向かって進んでいかざるを得なかった男たちのドラマ。これまでにないまったく新しい幕末維新のドラマが、鞍馬天狗を通して描けるような気がする。(3/15)
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