あの日を忘れない―描かれた東京大空襲
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近くの本屋で見かけてすぐに買った本。昭和20年3月10日の東京大空襲を体験した人々が、自らの体験を描いた画集だ。平成16年に開催されたすみだ郷土文化資料館の企画展「描かれた東京大空襲――絵画に見る戦争の記憶」のために寄せられた絵を、展示できなかった分も含めて収録している。東京大空襲では10万人の死者行方不明者が出ているのだが、広島長崎の原爆に比べてあまりにも語られていることが少ない。ここに収録されている生々しい体験談の迫力に胸がつまり、平凡な庶民が生きながら焼き殺されていくむごたらしさと悲惨に涙が出そうになる。
僕が現在住んでいる錦糸町は、60年前の3月10日、焼夷弾が雨のように降り注いだ真っ只中にあたる。この画集には絵の1枚ごとに、描かれた光景の日付、場所、絵を描いた人の名前、当時の年齢、絵にまつわるエピソードなどが併記してある。これを細かく見ていくと、見覚え聞き覚えのある町名や地名が何度も出てくるのだ。巻末には資料として当時の地図が収録されており、その地図上に描かれた絵のページ数が示してある。60年前と今とでは町名が変わっても、街路の基本的な構造は変わらない。いつも歩いている道が、60年前に地獄のような光景をさらしていたのだと考えると鳥肌がたつ。
中でもぞっとさせられたのは、亀戸駅周辺の光景だ。総武線と小名木川貨物線の分岐点に、焼け焦げた焼死体が折り重なっている風景(P.72)。ここは今でも、まったく同じ地形が残っている。先日そこを歩いたとき、「ああ、ここだ!」と思ったら身震いした。世田谷の太子堂から、空襲で巻き起こる火焔の渦巻きを描いた絵も衝撃的(P.16)。地表から空に向かって、真っ赤な火柱が渦を巻いて突き上げては消えていく。
あまりにも痛ましくて、泣きたくなってしまうような絵も多い。炎と混乱の中で生き別れになる家族。目の前で爆風に吹き飛ばされ、生きながら焼かれていく人々。子どもをかばうような姿で息絶える母親。亡くなった家族の前で呆然と立ちつくす人々。親しかった人たちの変わり果てた姿。遺体となった家族との再会。仮埋葬されていた遺体の中から父と弟の亡骸をみつけた15歳の少女が、冷たい雨がかからぬようにと弟の遺体に傘を差しだす絵には涙が出る(P.115)。
図録部分はオールカラーで、全部で96名分121点の作品を収録。これで2,100円(税込)は格安だ。ひとりで何点かの作品を寄せいてる人の絵を順番に見ていくと、その人の空襲体験を時系列で追いかけていくことができる。空襲体験談はこれまでにもたくさん発表されているが、絵が入ることで臨場感は数十倍になっていると思う。「昔こういうことがあった」ということを知るためにも、できるだけ多くの人に手もとってもらいたい本だ。(どうせなら少部数でも英語版を作って、海外の図書館などに寄贈してはどうだろうか。)
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