闇のなかの夢想―映画学講義

1982年12月発行。「死霊(しれい)」で知られる作家・評論家の埴谷雄高(1909~97)と、小説家の小川国夫(1927~)による映画対談。ほとんどが映画史初期のサイレント映画についての話題ということもあり、年長の埴谷雄高が語り、小川国夫が聞き役という形になっている。埴谷雄高の書いたあとがきによれば、この対談は本書に取り上げられたよりずっと長く続き、後半は小川国夫が語り手になる「戦後編」になるのだという。しかし戦後の映画については他にもたくさん本が出ているから、むしろこの対談の面白さはこの戦前・サイレント映画編にあるのではないだろうか。
僕は埴谷雄高の読者ではないし、埴谷雄高が映画評論をしていたこともまったく知らなかった。しかしリアルタイムで古い映画を観ている体験と、その記憶力の確かさには舌を巻く。ところどころに記憶の不確かな部分や勘違いが見られるが、それは小さな欠点だろう。(勘違いとしては、例えば『丹下左膳』と『丹下左膳余話・百万両の壺』の取り違えや、ドライエルの『吸血鬼』とロン・チェイニーの怪奇映画の混同など。)
映画の発明からサイレント映画の発達、各国の映画事情などを時代を追って語っているので、これは映画史の講義になっている。大正から昭和にかけての映画を個人の体験で語っているので、一般の映画史にはまったく登場しないような映画や映画人がところどころに登場するのが面白い。映画史を巡る雑談風の対談なので、映画について掘り下げて語っている部分はあまりないのだが、文学と映画の比較はこの顔ぶれなればこその話題かもしれないし、古典的な芝居の演出と映画演出の違いという話も面白かった。
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