映画監督であり脚本家でもある新藤兼人の自伝的エッセイ。生い立ち、映画界を目指したきっかけ、シナリオとの出会い、習作時代、溝口健二監督の想い出、シナリオの三段階理論など、いろいろと盛りだくさんの内容だ。しかしこの本の底に流れているのは、最初の妻・久慈孝子との短い結婚生活に対する思いだ。ふたりの出会いとプロポーズ、そして貧しかった新婚時代、ようやく世間に認められ始めたときにやってくる、妻の病気と死……。淡々とした筆致が、逆に大きな感動を呼ぶ。
新藤兼人監督はこの「久慈さん」との想い出をもとに、映画監督デビュー作『愛妻物語』を作った。その映画で妻・孝子を演じたのが、その後の新藤監督の公私に渡るパートナーとなる乙羽信子だった。
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