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2007.02.12

黒澤明vs.ハリウッド―『トラ・トラ・トラ!』その謎のすべて

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田草川 弘
文藝春秋 2006-04

by G-Tools

 映画監督黒澤明にとって晩年のトラウマとなった『トラ トラ トラ!』監督解任事件に、新たに発掘されたアメリカ側の資料や、プロデューサーのエルモ・ウィリアムズへの新しいインタビューなどを通してまったく新しい光を当てたドキュメント。『トラ トラ トラ!』についてはこれまでも様々な説が出されていたし、そこでは黒澤を解任に追い込んだ犯人捜しが行われるのが常だった。(例えば「黒沢明集成〈3〉」にあるレポートや「異説・黒沢明」にある、日本側プロデューサー青柳哲郎を悪役にする説。)しかしこの本は、それらとは一線を画している。これは日本とアメリカという異なった文化が出会い、互いに強く惹かれあいながらも相互を理解し得ないまま破局を迎える物語なのだ。

 黒澤監督が撮影所で起こしたとされる数々の奇行については知っていたが、この本にはそれも克明に再現されている。(コミック「クロサワ―炎の映画監督・黒沢明伝」にもその様子が描かれている。)こうした奇行ぶりを見ると、やはり黒澤明がフォックスに解任されるのもやむを得ないのかなと思う。しかしこうした奇行の出現は、それまで水面下で進行していた事柄が一気に表面に浮かび上がったものにすぎない。本書はそこに至る相互の行き違いを、映画の企画時点までさかのぼって解読していく。『史上最大の作戦』の太平洋戦争版として企画された映画が、いかにして黒澤明のもとに回ってきたのか。黒澤はどんなつもりでその仕事を引き受け、そこにどんな情報の行き違いがあったのか。本書を読めば、この映画の製作にはフォックスの側にも黒澤側にも、最初からボタンの掛け違いがあったことがわかる。そしてそのボタンの掛け違いに、なぜか互いが最後まで気が付かずにいたのだ。

 1960年代の日本には、ハリウッドの映画ビジネスがいかなるものなのかを知る人が誰もいなかった。またハリウッドの側にも、日本の映画製作事情を知る人が誰もいなかった。双方が勝手に「映画作りの方法は万国共通」だと思って、どんどん企画が進んでいったのが実情ではなかろうか。ハリウッドのプロデューサー・システムがいかなるものなのかぐらい、今ならちょっとした映画ファンでも知っているだろう。しかし黒澤明とその周辺の人たちは、それをまったく知らなかったし、知ろうとすらしなかった。

 いずれにせよ、『トラ トラ トラ!』事件については、この本が今後も決定版の底本として映画史の中に位置づけられることは間違いなさそうだ。(あとは青柳哲郎プロデューサーからの証言が聞いてみたいけれど。)黒澤明については、他にもまだなぞめいた事件がいくつかある。例えば三船敏郎との不仲はなぜ生じたのか。『影武者』での勝新太郎解任事件はなぜ起きたのかなどだ。こうした問題についても、いずれは決定的な本が出てくることを望む。

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