« 2007年11月 | トップページ | 2008年1月 »

2007.12.20

『フラガール』を支えた映画ファンドのスゴい仕組み

4827550085『フラガール』を支えた映画ファンドのスゴい仕組み (角川SSC新書 (008))
岩崎 明彦
角川SSコミュニケーションズ 2007-10

by G-Tools

 日本の映画ビジネスを資金調達の面から下支えする新しい仕組み「映画ファンド」について、『フラガール』を含むシネカノン作品のファンド化に係わったファンドマネージャーが解説した本。単に『フラガール』がらみの話だけでなく、映画業界の仕組みや、映画ファンド誕生のいきさつなど、日本の映画ビジネス全般について語られているのがいい。映画作品に興味がある人より、むしろ映画産業に興味がある人が読むべき本だろうと思う。

 映画ビジネスの解説書で資金調達について書かれた記事を読んだことは何度もあるが、ほんの数年前までは「日本では映画ファンドなど夢のまた夢」というのが常識だった。その常識がいかにして覆されたのかは、法的な問題のクリアとともに、この著者のように実際に金融畑の知識を持ち、なおかつ映画ビジネスに参入しようという熱意のある「個人」ががんばらないと話にならないのだろう。しかしこれはひとつの突破口。映画ファンドによって日本映画ビジネスの形が大きく変わるとは思わないけれど、これまで以上に柔軟な資金調達が可能になり、それは必ずや映画の企画や製作そのものも変えていくことになると思う。

 同じ著者による「コンテンツビジネスの資金調達スキーム」にも興味がわくけど、それはまた後日。

4901676962コンテンツビジネスの資金調達スキーム
ジャパンデジタルコンテンツ
九天社 2004-05

by G-Tools

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007.12.19

バルタザール・グラシアンの 賢人の知恵

4887595166バルタザール・グラシアンの 賢人の知恵
バルタザール・グラシアン 齋藤 慎子
ディスカヴァー・トゥエンティワン 2006-12-20

by G-Tools

 バルタザール・グラシアンという17世紀スペインの修道士が書いた本で、人生についてのさまざまな箴言・金言が書かれている。僕はこの手の金言集がわりと好きで、ビアスの「悪魔の辞典」とかラ・ロシュフコーの「箴言集」などはよく引用したりしてます。完成度という意味ではラ・ロシュフコーがいいですな。中国の故事成語なども、背景により大きな物語があって奥が深い。聖書も引用することがあるけど、こちらはご立派すぎてあまり使い回しがきかないのが欠点。で、バルタザール・グラシアンなのですが、僕は最初に本屋で立ち読みしたとき以上の面白さを、この本から感じることはできなかった。これはひょっとすると、訳文が問題なのかもしれない。

 バルタザール・グラシアンの本はこれまでにも何度か翻訳されたことがあって(参照)、それなりに広範囲な読者を獲得しているようだ。Baltasar Gracianで検索するとさらにぞろぞろと大量の本が出てくるから、人気があることはあるんだろうけど……。とりあえず今回の本は、訳文の調子がビジネス書みたいに素っ気なくて、金言・箴言・警句に不可欠なレトリックの妙味を味わうことができなかったのが残念。別訳で読むと、また違った感想があったかも。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007.12.11

うつから帰って参りました

477620469Xうつから帰って参りました
一色 伸幸
アスコム 2007-09-27

by G-Tools

 僕の世代の映画ファンにとって、一色伸幸が日本映画界のアイドルだった時代がある。少なくとも僕にとって、脚本家の一色伸幸はアイドルだった。1987年の『私をスキーに連れてって』からのホイチョイ・ムービー3本、90年の『病院へ行こう』とそのパート2(続編ではない)、93年の『卒業旅行 ニホンから来ました』ぐらいまで、一色脚本の映画はどれも面白かった。ここ10年ほどの「邦画復活ブーム」や「邦画バブル」からは想像が付かないけれど、当時の日本映画は貧乏くさくて、トロくて、クソつまらないものが多かった。日本映画を観るのはじいさんばあさんとマニアだけで、若い観客はほとんどが洋画を観てた。当時会社勤めをするただの映画ファンでしかなかった僕は、「邦画はいずれ消えるだろう」と思っていたし、「一度消えて復活しない限り邦画に明日はない」と思っていた。でもそんな中で、一色伸幸だけは金子修介や滝田洋二郎と一緒に面白い映画を作っていたのだ。僕はこの時代の一色脚本映画を、リアルタイムでほとんど観ている。(多作だったので見落としているものも多いけど。)

 その一色さんが、薬物依存と鬱病を患って死にそうな目に遭っていたというのは知らなかった。この本はその間のどたばたの顛末を、一流脚本家の手で再構成してみせるドキュメントだ。著者が慶良間島で『彼女が水着にきがえたら』の沈没飛行機に再会するところから物語が始まり、子供時代の回想になり、学生時代に自主製作映画を撮り始め、やがて脚本家を志し、売れっ子になり、仕事のプレッシャーから市販薬の依存症になり、それがエスカレートする形でハルシオンの中毒になり、鬱病に突入していく様子が書き綴られている。所々に当時書いていた脚本の断片が引用されているのが、一色脚本の映画を追いかけていた僕には懐かしい。

 著者が鬱病になる引き金を引いたのは、92年の『病は気から 病院へ行こう2』で自分自身の死をシミュレーションし、ホスピスを取材するなどして、ありのままのリアルな死を身近に感じたからだという。死に接近しすぎて、死に魅了されてしまったのだ。(もちろんそこには、薬物の影響もある。)僕はこの映画ももちろん観ている。同時上映の『七人のおたく cult seven』はつまらなかったが(これも一色脚本)、『病院へ行こう2』は面白かったし感動的だった。ヒロインを演じた小泉今日子もよかった。でもこのヒロインが、脚本家の精神をむしばんでいくモンスターへと変貌する。このあたりは、読んでいて非常に恐ろしくもある。まるでサスペンス・スリラーだ。

 僕の個人的な評価でしかないけれど、一色脚本は94年の『熱帯楽園倶楽部』から失速していく。香港映画界のアイドルだったアニタ・ユンを招いた『香港大夜総会 タッチ&マギー』はぼんやりとした映画に終わったし、『ショムニ』に至っては、そもそもなんでこんな映画を作ったのかさえ理解に苦しむものだった。(これは当時の松竹の混乱ぶりを物語っているわけでもあるんだけど。)

 それにしても、一色伸幸という脚本家はバブルの人だ。バブル経済花盛りの折に脚本家として華々しく脚光を浴び、バブルが崩壊すると鬱病になって生と死の間をさまよい、経済が上向きになると共にうつから帰還を果たした。ただし脚本家としての仕事量は、だいぶ減っているけど。うつから帰還した一色さんが、自らのうつ体験を注ぎ込んだ代表作だというテレビドラマ「彼女が死んじゃった」を僕は見ていない。でも今回「うつから帰って参りました」を読んで、「彼女が死んじゃった」をぜひとも見なくては!という気持ちになった。

B00023BNJ2彼女が死んじゃった。 DVD-BOX
長瀬智也 深田恭子 香川照之
バップ 2004-06-23

by G-Tools

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2007.12.06

映画理論入門

4390100106映画理論入門
今村 太平
社会思想社 1993-06

by G-Tools

 今から半世紀以上前に書かれた映画理論の入門書。著者の今村太平はかつて一世を風靡した映画評論家であり映画理論家。今でも彼の「漫画映画論」は、映画関連の古典的書籍を復刊したジブリLibraryで手に入れることができる。それなりに読者がいるということなのかもしれない。僕が今村太平の名前を知ったのは、映画評論家の佐藤忠男さんが自伝的な著書の中で紹介していたからで、そこには「昔読んだときはすごい理論家だと思ったけど、その後は古くさく感じられるようになった」といった意味のことが書かれていた。それは今回、この本を読んで僕も感じた。理論家として映画や映画理論を一刀両断していく姿勢はすごいけど、これはもう時代遅れです。なんたって理論の根幹にあるのが、マルクス主義の唯物論だからなぁ……。

 この本は古典的な映画理論の入門書としては、それなりによくできている。取り上げられているのはミュンスターバーグ、ムウシナック、アルンハイム、ベラ・バラーズ、エイゼンシュテイン、プドフキン、ポール・ローザで、彼らの著書からその理論や思想のエッセンスを取り出して簡潔に紹介してくれているのはとてもありがたい。僕はベラ・バラージュ(バラーズ)の「映画の理論」も読んでるけど、それよりは今村太平流の抜粋と要約の方がよほど彼の理論がよくわかるような気にさせられる。おそらくそれは、他の理論家の著書についても同じことが言えるのではないだろうか。

 しかし僕はその要約の姿勢に、少し疑問を持ったりもするのだ。ここには著者である今村太平の視点が入っている。彼は古典的な映画理論を引用紹介しつつ、そこに自分自身の批判的なコメントも書き加えている。それは紹介している映画理論を相対化し、現代の読者にとってより役に立つ生きた理論にしたいという著者の願いから来るものなのだろうが、著者はなにしろ半世紀前のマルクス主義理論家だから、その批判にせよ、相対化にせよ、マルクス主義のバイアスがかかってしまっている。この本を読んでそこに書かれている理論を我がものにしようとする人は、紹介されている理論と向き合うために、今村太平というマルクス主義理論家の視点を再度自分の中で再検証し、補正していかなければならないのだ。

 現代教養文庫から出されていた本で、僕が入手したのは「現代教養文庫リバイバル・セレクション」の1冊。現代教養文庫を出していた社会思想社もなくなっている今、この本はもう復刊されることはないと思う。ただし古典的な映画理論の紹介という点では、おそらくこれに勝る本はそうそうないと思う。そうしたものが読みたい人にはよい本。ただし復刊を待つまでもなく、こんなものは古書ルートで手に入れればいいのです。数百円で買えるしね。

| | コメント (0) | トラックバック (0)