2007.10.09

官邸崩壊 安倍政権迷走の一年

官邸崩壊 安倍政権迷走の一年

 安倍首相の唐突な退陣をきっかけに購入した本。タイトルは既に安倍政権の崩壊をうたっているわけだが、ここで取り上げられているのは安倍首相が辞任するより前の2007年夏、参院選惨敗と赤城農相の更迭までだ。その段階で、この本は安倍政権が事実上崩壊したのだと断言している。安倍政権の崩壊を見事に予言しているわけだ。

 内容は事実に沿っているのだが、人物の内面に深く切り込んでいく筆致はドキュメントというより小説に近い。それだけ面白く読めるが、これを額面通りに受け取るのも考え物だろう。首相のご機嫌取りに終始する側近たちの描写などは、政治家というより首相相手の幇間(たいこもち)だ。毛並みのいいお坊ちゃん政治家をおだてて首相に祭り上げ、その周囲で覚えめでたき幇間たちが歌い踊ってご祝儀の分け前にあずかる。なんと滑稽な話か。

 安倍政権の屋台骨が徹底的にぐらついたのは、政治と金の問題や、年金問題での揺さぶりが致命的だったことは間違いないと思う。しかしこの本はそうした表向きの問題よりも、政権内部の人間関係や、首相とその周囲に群がる人々の「人間性」に焦点を当てているのがユニーク。面白い。面白すぎる。

 これは小説のようなものだと思う。しかしその小説的手法によって、安倍政権の実態を深くえぐり出しているのも事実なのだ。この本を読んで、「ああなるほど、そういうことだったのか!」と思うことは多かった。

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2007.03.27

下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち

4062138271下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち
内田 樹
講談社 2007-01-31

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 学校で勉強しようとしない子供たち。社会に出て働こうとしない若者たち。なぜ彼らは、自分たちに与えられた自由をいたずらに空費するのか。それは怠けているのではなく、わざとそうしているのだ。彼らはわざわざ努力して学力を下げ、あえて働かない道を選んでいる。市場経済の原理原則にどっぷり浸かって成長してきた彼らにとっては、それが最も合理的な行動なのだ……。そんな著者の指摘は面白い。確かにそういう面もあるような気がする。

 先日、講師として勤務している学校の研修会で、「今の子供たちは、お願いされて育った世代だ」という話が出て、それにもなるほどな〜と感心した。昔の子供は、親からあれやれこれやれと命令された。学校でも同じだった。命令に従わなければ、それなりの罰を受けることになった。しかし今の子供たちは、親からも教師からも「お願いだから○○して」と言われながら育ったのだという。親や教師が子供に何を命じようと、それをするかしないかの決定権は子供の側にある。この本の主張に通じる話だと思う。

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2007.02.02

「カルト」を問い直す―信教の自由というリスク

4121502019「カルト」を問い直す―信教の自由というリスク
櫻井 義秀
中央公論新社 2006-01

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 「信教の自由」は基本的人権の根本だ。しかしそれを尊重すれば、反社会的なカルトや破壊的カルトに対して、社会は何の制約を加えることも出来なくなる。この本はカルト宗教の成り立ちやいくつかの具体例を織り交ぜつつ、現代日本社会がいかにカルト集団と付き合っていけるのかを問う。しかしこの問題、具体的な処方箋があるわけではない。ここで問われているのは、日本社会が漠然と万能のように感じている「人権」の限界だろう。

 具体例としてあげられているのは、オウム真理教、統一教会、聖神中央教会など。オウム真理教(アーレフ)の信者を社会がどう受け入れるべきなのかなど、現在進行形の問題でもあるのだろう。

カルトか宗教か
カルトか宗教か竹下 節子

文芸春秋 1999-11
売り上げランキング : 219742

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カルトの子―心を盗まれた家族 「カルト」を問い直す―信教の自由というリスク Q&A 宗教トラブル110番―しのびよるカルト マインド・コントロールとは何か ローマ法王―二千年二六五代の系譜

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2006.03.22

ヒトラーとユダヤ人

ヒトラーとユダヤ人
ヒトラーとユダヤ人
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大沢 武男
講談社 (1995/05)
売り上げランキング: 157,786
 ナチスドイツのユダヤ人絶滅計画は有名だが、この本はナチスの蛮行はもちろんのこと、そこに至るまでの歴史を紹介している。ドイツにおけるユダヤ人社会の歴史。ドイツ人とユダヤ人の長い交流。ドイツ国内の反ユダヤ感情の歴史。ユダヤ人迫害と搾取の歴史。こうした歴史の最後に、ヒトラーとナチスがある。ローマは一日にしてならず。ホロコーストもそこに至るまでの下地があったのだ。ドイツ人がナチス時代を恥じながら、ユダヤ人迫害をひとりヒトラーだけに責任転嫁できない負い目がここにある。

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2006.03.12

メディア・コントロール―正義なき民主主義と国際社会

メディア・コントロール―正義なき民主主義と国際社会
ノーム チョムスキー Noam Chomsky 鈴木 主税
集英社 (2003/04)
売り上げランキング: 17,299
 イラク戦争勃発直後の2003年4月に初版が出た本。民主主義とは少数の権力者が多数の民衆を欺く制度であると一刀両断にし、普通の人々がいかに本当の情報から遮断され、社会正義がその時々の権力者によっていかに都合よく運用されているかを多くの実例を引用しながら論証している。そこで批判されている対象はアメリカとその同盟国。確かにここで著者が主張している話に嘘はあるまい。しかしその言葉は勢いがよすぎて、少数の例によって全体を批判するような部分があるようにも思えてしまう。

 要するに物事の善悪をきっぱり断言しすぎなのだ。この本は国際政治を論じているわけだが、国際政治の世界はこれほどきっぱり善悪理非を判断できる世界なのだろうか? 著者はそこで「火星人のジャーナリスト」という比喩を出す。こうして白黒きっぱり分けて理論的・合理的に政治を語るのは普通の人間にとっては非常識で、それを是とするのは火星人ぐらいのものだと本人も承知の上なのだ。

 チョムスキーの言葉は鋭い。しかしその鋭さは、まったく実際の政治の領域には届かない。チョムスキーは地球で暮らしている火星人なのだ。それを本人が完全に自覚しているのが、この本の持つ凄味なのかもしれない。

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2006.03.10

宗教世界地図

宗教世界地図
宗教世界地図
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石川 純一
新潮社 (1993/04)
 世界各地の宗教分布と、そこで起きている宗教対立を、地域ごと、テーマごとにコンパクトにまとめたガイドブック。各項目が簡潔にまとめられていて、こうした問題の入口としてはいい本だと思う。しかし1993年初版だから、これはやはり内容が古い。今でもまったくそのまま通用しそうな項目の方が多いとは思うのだが、アフガニスタンやイラクなど、ここ何年かで国のあり方自体ががらりと変貌してしまった部分もある。こうした国については、「なるほど、以前はこうだったのか!」という発見があるものの、やはり最新知識としては別の資料を読まねばならない。

 この本は好評だったようで、その後文庫化され、他の著者の手による改訂版も出ている。一般教養または最新の世界情勢を知りたいということであれば、それらを入手した方がいいと思う。この初版は、あくまでも1990年代前半の世界を記録したという点で、資料的な価値を有するだけだ。

宗教世界地図 最新版
宗教世界地図 最新版
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立山 良司
新潮社 (2004/04)
売り上げランキング: 14,147
おすすめ度の平均: 5
5 読み易い!!

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2006.03.04

がんばれ!!吉野家

がんばれ!!吉野家
がんばれ!!吉野家
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山中 伊知郎
長崎出版 (2006/02)
 BSEによるアメリカ産牛肉輸入停止をうけて、日本最大の牛丼チェーン・吉野家がいかに対処したかを綴る、ここ2年間の決算報告。この本が企画されたのは日本への米産牛肉輸入が再開された頃で、吉野家の牛丼復活タイミングに合わせた出版企画だったはず。それが牛肉への背骨混入という不祥事で再び米産牛肉の輸入がストップし、今後の輸入再開見通しはまったく立っていない状態だ。僕も「牛丼愛好家」のひとりとして本書の取材を受けていたので、最初は出版されることも危ういのではないかと思ったが、結局こうした形で出ることになった。著者は2001年にも「吉野家!―新国民食」という本を書いている山中伊知郎さん。

 本は全部で6つの章で構成されていて、1~3章は米産牛肉の輸入禁止から現在までを時間経過と共にたどったもの。読んでいて「そうそう、そんなことがあったよな~」と思ってしまうのは、僕もかなり吉野家に通っている証拠だ。4章はこの2年間に登場して定着、あるいは消滅して行った新メニューの紹介。5章は吉野家フリークによるさまざまな食の冒険の数々、6章は今後の吉野家への著者からの提言となっている。ちなみに僕の名前は第4章にチラッと出てくるのだが、それ以外の場所でも僕が話した内容がアレンジされながら引用されている様子。それとも僕と同じようなことを考えたりコメントしたりしている牛丼ファンが大勢いるのかな……。僕以外の人はみんな匿名になっているのでよくわからないけど。

 それにしても残念なのは、この本自体の立ち位置がいまひとつ中途半端なこと。牛丼販売が再開されていれば、「あの頃は大変だったけど、今はこうして立ち直りました。吉野家はますます元気です!」と勢いよく締めくくれたであろう企画なのだが、今現在の状態ではどうしても「中間報告」の感をぬぐえない。これは牛丼がいつの日か発売再開されたおりに、増補改訂版を出してほしい本だ。たぶんその頃には、吉野家側も今は話せないさまざまな内部事情を語ってくれるのではないだろうか。

 この本に関して言えば、吉野家内部の取材よりも、新聞記事や外部発表された広報データなどにもとづく記事や、著者の個人的な見解などが目立っているように思う。著者が吉野家のファンであることは伝わってくるし、それによって著者に好感も持つのだが、読み物としては新しい発見がほとんどなくて物足りないのだ。

吉野家!
吉野家!
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山中 伊知郎
廣済堂出版 (2002/05)
売り上げランキング: 313,746

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2006.03.02

メディア・リテラシー―世界の現場から

メディア・リテラシー―世界の現場から
菅谷 明子
岩波書店 (2000/08)
売り上げランキング: 19,975
 子供たちに「メディア」をどう教えるかをテーマに、海外の事例などを紹介した本。発行が2000年なので少し情報は古くなっているが、日本のメディア教育はここで紹介されている事柄よりもまだかなり遅れているのではないだろうか。インターネットに接続できるパソコンが教室に何台かあれば、それがメディア教育というものでもないと思うのだが、それでもないよりはましか。必要なのは、ニュースやテレビドラマ、新聞や雑誌などのマスメディアについての、批判的視点を養うことだと思うのだけれど……。

 僕自身はかつて広告会社やデザイン会社に勤めていたこともあるし、現在はフリーのライターとして雑誌に記事を書いたりもしている。インターネットは日本に本格的に紹介され始めた頃から接しているし、テレビやラジオへの出演経験もあれば、テレビ番組の仕事を手伝ったこともある。そんなわけで、テレビやラジオ、雑誌やインターネットなどのコンテンツが、いかに作られているかについては一通り知っているつもりだ。しかし問題はそれを知らない人たちに、それをどう教えるかだ。この本は個々の授業風景などについても簡単に触れているのだが、実際に授業をしようとするには、これよりもう少し詳しいマニュアル的な教則本が必要になると思う。

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2006.02.25

カレーライスと日本人

カレーライスと日本人
森枝 卓士
講談社 (1989/02)
売り上げランキング: 124,475
 カレーライスの起源はどこにあり、いかにして日本人の国民食になったのかを探るドキュメント。カレーの源流を求めて東南アジアからインドにさかのぼり、インド人に日本のカレーを食べさせて「美味い!」と言わせるくだりはケッサク。ここでインドのカレー事情を観察した著者は、インドには存在しないカレー粉のオリジナルを求めて、かつてのインドの宗主国イギリスに渡る。そこにある老舗の食品メーカーC&Bこそが、世界で最初にカレー粉を作った会社だったからだ。しかしC&Bにはカレー粉誕生にまつわる資料がほとんど存在しない。著者の旅は続く……。

 カレーライスについては他にも何冊かの本が出ているようだが、カレーのルーツや日本人とカレーの関わりについては、これ1冊読めばだいたいわかる。海軍カレーに代表される「軍隊でカレーを食べた兵士が地方にカレーを広めた」とされる説をあまり重要視せず、古い料理本や聞き書きなどから、洋食店や学生寮などにも幅広くルーツを求めていく姿勢には感心する。

 まあ「軍隊こそカレーの元祖」という説の方が、面白いことは面白いんだけどね……。

日本人はカレーライスがなぜ好きなのか
井上 宏生
平凡社 (2000/11)
売り上げランキング: 163,796
おすすめ度の平均: 3.5
3 証拠がない
4 カレーの歴史がわかる本

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2006.01.26

語られなかった皇族たちの真実

 女系天皇容認論に反対して、男系男子にこだわるべきだという意見をのべただけの本ではない。ここで語られているのは、天皇に比べてあまりにも語られてこなかった「皇族」の歴史だ。天皇制についてある程度の知識を持っている人も、天皇や天皇家を周囲で支えた親戚筋である皇族については、あまりよく知らなかったのではないだろうか。この本では皇位継承という問題を入り口にして、男系男子を守るための安全装置として設けられた宮家の成り立ちと歴史を語っていく。

 この本で特に力が入っているのは、戦前から戦中戦後にかけての昭和の激動期に、皇族たちがいかに天皇を支えたのかという部分だろう。政治に深くコミットすることを避けて近代的な立憲君主として振る舞おうとした昭和天皇が、政治家や軍部から孤立を深めていく中で、その仲立ちとして働き、戦争回避や終戦に向けて奔走した皇族たち。これは今までにない視点からの昭和史だろう。

 こうした「皇族の昭和史」に多くのページが割かれた結果、この本は結局何が言いたいのかはっきりしない本にもなっている様な気がする。「昭和の時代に天皇をお助けしたのは皇族たちなのだから、これからもそうした存在があった方がいい。だから旧皇族を皇族に復帰させるべきだ」ということを、遠回しに述べているのような気もする。でもそうなると、著者本人が旧皇族の末裔だというのだ気になる。この著者が天皇になりたがっているとは思わないけれど、自分は(自分たちは)皇族に復帰すべきだと考えているような気もするのだ。

 まあしかし、こうした意見も含めて、皇室の今後についてはもっといろいろな視点や立場からの意見があっていいと思う。男系男子でない天皇家はもはや天皇家ではないという指摘については、僕もその通りだと思う。仮に愛子様が将来の天皇陛下になったとしても、そのお子さまが天皇になるのはどうなのだ?

 しかし今はまだ愛子様のお祖父さまが天皇陛下であられるわけで、愛子さままで順番が回ってくるのはまだまだずっと先の話だ。問題が起きるのは愛子さまが男系女帝として即位することではなく、その次の天皇をどうするかだから、どんなに早くともあと50年とか60年は先の話だろう。にもかかわらず、たいして議論もしないままに皇位継承についての議論は、もっと時間をかけてもいい問題だと思うぞ。

皇族・華族古写真帖 愛蔵版
新人物往来社
新人物往来社 (2003/08)
売り上げランキング: 75,925
おすすめ度の平均: 5
5 愛蔵版

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2006.01.23

本当に女帝を認めてもいいのか

本当に女帝を認めてもいいのか
八木 秀次
洋泉社 (2005/06)
売り上げランキング: 126,831
 天皇の皇位継承について、女性天皇と女系天皇の違いや、過去の天皇家で行われた皇位継承の歴史、今後天皇制を存続させるにはいかなる手段があり得るのかについて簡単に論じた本。著者の主張は単純明快。皇統は男系男子に限定されるのが、天皇の天皇たるゆえんであるというものだ。男系の女性天皇が中継ぎとして皇位に就くのは構わない。しかし女系の天皇は歴史上にただひとりも存在しないのだから、これを受け入れることはできない。なぜ男系にこだわるのかは、それが天皇制というものだからとしか言えない。昔からそうだったし、それが破られたことはただの一度もない。たとえ現在の天皇家に男の子がいなくても、過去に行われたのと同じ方法で、皇位を継承していくことはできる。皇統を女系に移さずとも、男系男子で皇位を継承していく伝統は守れるのだ。その方法が少しでもある間は、昔ながらの方法を守っていくべきでだろう。著者はそう訴える。

 天皇はなぜ天皇なのか。なぜ国民統合の象徴になり得るのか。それは天皇が「万世一系の天皇家」という歴史を背負っているからだ。もちろんその初期は神話だから、実在が怪しい部分もある。皇室の歴史が2600年以上あるとは、さすがにほとんどの人が考えていないだろう。しかしそれでも、歴史的に確かな部分だけで千数百年の歴史があるのが天皇家なのだ。それは文書として記録されている「日本の歴史」の時間とほぼ等しい。日本人が日本人として自らのアイデンティティを持ち始めたとき、そこには既に天皇制度が存在した。そしてその頃から一貫して、天皇の皇位継承はすべて男系で行われている。例外はただのひとつもない。

 僕自身はこの著者と同じく、昔から行われている方法が現在も行えるのである限り、それは昔通りにしておくのが「伝統」というものだと思う。天皇家の血を引く男系男子筋がすべて途絶えて万策つきてしまったら、その時は改めて、女系天皇を認めるか否かを議論すればいいのではないだろうか。その際は、国家制度としての天皇制廃絶も含めた議論が必要かもしれない。僕はなにも天皇制度が日本人にとって絶対必要だとか、それなしには生きていけないなどとは考えていない。天皇の血筋が絶えて天皇家が消滅するなら、それはそれで致し方のないことだと思う。その点が、僕と著者の違うところかもしれない。

 なお男系男子の根拠として「Y染色体の刻印」云々という話が出てくるのは面白いのだが、それは男系男子の伝統とはまた別の話だと思う。そんなにY染色体がありがたいなら、現在の皇族たちから血液でも採取して冷凍保存しとけばいい話。むしろ男子皇族の精子を採取して、一般から募ったボランティアの女性に人工授精でもしたほうが手っとり早いだろう。でもこれは、そういうもんじゃないでしょうね。

 いずれにせよ、歴史的に見て実績のある皇位継承方法はまだまだ存在するのだから、それを十分に検討してから「女系もやむなし」という国民的な合意を得るべきだろうと思う。いくら伝統を主張しても、それが国民に支持されなければ意味がない。ただし側室制度を持たない現在の皇室では、伝統的な男系男子への継承に固執する限り、皇位はほんの数世代で直系から傍系へと移り変わっていくはずだ。仮に旧宮家を復活させたり、旧宮家から男系の男子を養子に迎えたとしても、それは問題を先送りしているだけで、やはり数世代後には男系男子が途絶えることになるだろう。このあたりの疑問に、この本は答えていない。しかし皇位継承の問題を考える際、いろいろな示唆を与えてくれる本だとは思う。

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2005.08.05

現代メディア史

4000260154現代メディア史
佐藤 卓己


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 メディアの発達が国民国家や社会の発展に果たした役割を、さまざまなテーマごとに概説した本。取り上げられているテーマは、都市、出版、新聞、映画、宣伝、ラジオ、トーキー映画、テレビなど。これらのテーマをさらに、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本の事例に細分化して、それぞれの国でそれらのメディアがどう受容され、発展したのかが考察されている。

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2005.07.03

メディア文化論―メディアを学ぶ人のための15話

4641121907メディア文化論―メディアを学ぶ人のための15話
吉見 俊哉


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 メディア論の入門書として読んだ。全体は15章(この本では章を「話」と表現する)からなる3部構成。第1章を全体の序章にあてて、第2章から6章までの第1部はメディア論についての大きな流れ、第7章から11話までの第2部は新聞・電話・映画・ラジオ・テレビなどのメディア史、第12章からは携帯電話・パソコンネット・メディアのグローバリゼーション・メディアリテラシーなどをテーマにメディアの現在を解剖していく。

 メディア論を駆け足で紹介した第1部は少々難しく、キーワードや人物名だけが次々に列挙されるスタイルでは内容理解もおぼつかない。これはまた別の本を読まねばならないだろう。第2部以降は面白かった。一番刺激的なのは「現在」をテーマにした第3部。

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2005.05.26

彰義隊遺聞

410410003X彰義隊遺聞
森 まゆみ


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 上野といえば動物園や博物館が有名だが、その上野は江戸が明治に変わる年に戦争の舞台になった。官軍と戦ったのは、幕臣と浪人たちからなる千人あまりの彰義隊。最新式の火器と洋式装備で武装した官軍と、間に合わせの武器弾薬で上野寛永寺に立てこもる彰義隊との戦いは、わずか半日ほどで官軍の圧倒的な勝利に終わったという。彰義隊側の死者は300人以上。生き残ったものは散り散りになって各地に逃げ延びた。この戦争によって、江戸随一の規模を誇る東叡山寛永寺はほとんどが消失してしまった。

 「彰義隊遺聞」はその上野戦争と彰義隊の全体像を、同時代の資料、戦史、日記、手紙、碑文、聞き書き、そして現代に伝わる各種の言い伝えなどをもとにして、立体的に再現している。そこから伝わってくるのは、時代の大きな荒波の中で、精一杯に自分たちの生活を生きた人たちの姿だ。ここでは旧幕臣、郷士、浪人、寺侍、百姓、商人、町人など、さまざまな角度からそれぞれの上野戦争が描写されている。

 上野戦争と彰義隊は、江戸から明治に写る時代の中で、小さな句読点のような役割を果たしているのかもしれない。文章の中の句読点にそれだけでは意味がないように、上野戦争や彰義隊にもそれだけでは歴史的な意味などない。しかし句読点のあるなしで、文章の意味が大きく変わってしまうことがある。歴史の流れの中には、上野戦争や彰義隊が必要とされたのかもしれない。

 この本を読んで、江戸から東京へ流れがなんとなく腑に落ちたような気がする。江戸と東京の間に立ちふさがり、ふたつをつないでいるのが彰義隊なのだ。

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2005.05.16

博徒の幕末維新

4480061541博徒の幕末維新
高橋 敏


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 甲州の博徒・竹居安五郎が、流刑の地であった新島を島抜けし故郷に戻ったというエピソードから、黒船来航でてんやわんやする幕末の世相と、博徒たちのネットワークに切り込んでいく滑り出しの面白さ。そこからさらに、安五郎という博徒を生んだ甲州竹居村の実情や、百姓の長が容易に無頼の徒と関わりを持っていた社会構造を描き、さらに、嘉永水滸伝の主役となった勢力富五郎、有名な国定忠治、そして黒駒勝蔵と赤報隊の謎を解いて行く。

 面白いのだが、古文書を引用している部分はちょっと読みにくいか。図版は多いのだが、人物の移動が多いので、もっとふんだんに地図があってもよかったと思う。

 黒駒勝蔵など幕末の博徒を、草莽(そうもう=在野)の志士とする視点は面白いと思った。やくざと尊皇(右翼)は昔も今も隣同士なのだ。博徒のネットワークを倒幕運動に利用した新政府が、最後はそれを切り捨てたという著者の視点は、立場は違えども新選組とも通じ合う。じつは赤報隊には、元新選組のメンバーも少なからず参加しているのだ。

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2005.05.10

あの日を忘れない―描かれた東京大空襲

476012666Xあの日を忘れない―描かれた東京大空襲
すみだ郷土文化資料館


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 近くの本屋で見かけてすぐに買った本。昭和20年3月10日の東京大空襲を体験した人々が、自らの体験を描いた画集だ。平成16年に開催されたすみだ郷土文化資料館の企画展「描かれた東京大空襲――絵画に見る戦争の記憶」のために寄せられた絵を、展示できなかった分も含めて収録している。東京大空襲では10万人の死者行方不明者が出ているのだが、広島長崎の原爆に比べてあまりにも語られていることが少ない。ここに収録されている生々しい体験談の迫力に胸がつまり、平凡な庶民が生きながら焼き殺されていくむごたらしさと悲惨に涙が出そうになる。

 僕が現在住んでいる錦糸町は、60年前の3月10日、焼夷弾が雨のように降り注いだ真っ只中にあたる。この画集には絵の1枚ごとに、描かれた光景の日付、場所、絵を描いた人の名前、当時の年齢、絵にまつわるエピソードなどが併記してある。これを細かく見ていくと、見覚え聞き覚えのある町名や地名が何度も出てくるのだ。巻末には資料として当時の地図が収録されており、その地図上に描かれた絵のページ数が示してある。60年前と今とでは町名が変わっても、街路の基本的な構造は変わらない。いつも歩いている道が、60年前に地獄のような光景をさらしていたのだと考えると鳥肌がたつ。

 中でもぞっとさせられたのは、亀戸駅周辺の光景だ。総武線と小名木川貨物線の分岐点に、焼け焦げた焼死体が折り重なっている風景(P.72)。ここは今でも、まったく同じ地形が残っている。先日そこを歩いたとき、「ああ、ここだ!」と思ったら身震いした。世田谷の太子堂から、空襲で巻き起こる火焔の渦巻きを描いた絵も衝撃的(P.16)。地表から空に向かって、真っ赤な火柱が渦を巻いて突き上げては消えていく。

 あまりにも痛ましくて、泣きたくなってしまうような絵も多い。炎と混乱の中で生き別れになる家族。目の前で爆風に吹き飛ばされ、生きながら焼かれていく人々。子どもをかばうような姿で息絶える母親。亡くなった家族の前で呆然と立ちつくす人々。親しかった人たちの変わり果てた姿。遺体となった家族との再会。仮埋葬されていた遺体の中から父と弟の亡骸をみつけた15歳の少女が、冷たい雨がかからぬようにと弟の遺体に傘を差しだす絵には涙が出る(P.115)。

 図録部分はオールカラーで、全部で96名分121点の作品を収録。これで2,100円(税込)は格安だ。ひとりで何点かの作品を寄せいてる人の絵を順番に見ていくと、その人の空襲体験を時系列で追いかけていくことができる。空襲体験談はこれまでにもたくさん発表されているが、絵が入ることで臨場感は数十倍になっていると思う。「昔こういうことがあった」ということを知るためにも、できるだけ多くの人に手もとってもらいたい本だ。(どうせなら少部数でも英語版を作って、海外の図書館などに寄贈してはどうだろうか。)

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2005.03.22

やっぱりバカが増えている

やっぱりバカが増えている
小浜 逸郎


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 外出中に読む本がなくなってしまったのでたまたま本屋で購入した本だが、まったく面白いと思わなかった。著者の考え方に賛成とか反対とか、そういうレベルで面白いとかつまらないとか言うつもりはない。「こいつはひどい奴だ」と思いながらも、その暴論を楽しむという読書もありえるからだ。この本の場合は、言っていることはどれもまともだと思うのだが、論の立て方や論の進め方が、やけに回りくどくて面白味に欠けるのだ。

 また分析的・批判的に論を進めようとする場面で、僕のような素人が見ても明らかに「そりゃ違うだろう」と思われるようなアラが見えるのは読んでいてしらけてしまう。例えばP115にある「『犯罪』概念が成り立つための四つの条件」という部分では、「犯罪を規定する法律が存在しなければ犯罪にならない」というごく当たり前の犯罪構成要素がすっかり抜け落ちている。著者が4つの条件としてあげているものをすべて満たしていても、取り締まるべき法律が存在しなければそれは「犯罪」とはなり得ないのだ。

 ほとんどは他の場所で発表した文書の再録なので、文体などがばらばらになったり、内容的に重複が見られるという欠点もある。しかし書下ろしであるはずの第3章6節「どうしたらバカ社会を終わらせられるか」も、中身は空想的な理想の教育制度を提示するだけだ。こんなプランを提示するよりは、まだ「ゆとり教育」やその反動としての「声に出して読みたい日本語」や「百マス計算」のほうが、実施可能なだけましだと思うけどな。

 本の帯には「誰からも賢いと思われているやつがほんとうのバカなのだ!」とか「もう、この小利口で声高な言説を許してはおけない!」などと書かれているけれど(まあこういうものは編集者が作るコピーではあるが)、この本を読むと、この著者自身が「自分を賢いと思っているバカ」に思えてきてしまう。(3/22)

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2005.03.16

団塊の世代とは何だったのか

団塊の世代とは何だったのか
由紀 草一


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 団塊の世代とは1947年から49年のベビーブームに生まれた人たちだという。本書の著者は54年生まれで、その少し後の世代。団塊の世代のすぐ後ろ追いかけ、その行動を少し冷ややかな目で見つめながらてきた世代だ。これはそんな著者が、団塊の世代が生きてきた時代を再現しつつ、日本の「戦後」と「今」を問うた本と言っていいだろう。

 この本を読む人は団塊世代が生きてきた日本の戦後史を、批判的に追体験することができる。戦後の民主主義教育とは何だったのか。戦後民主主義教育の原点と限界。急速に立ち上がっていく資本主義経済という現実とは必ずしも一致していなかった、きれいごとの民主主義教育。その矛盾は世界各地で起きた学生運動や平和運動と共鳴しながら、大学紛争の現場へと持ち込まれ、一部は過激化して連合赤軍事件のような先鋭集団と化していく。その一方で起きたフォークブーム。若者の反乱は資本主義社会の中で必然的に商業化され、団塊の世代は嫌々ながらもサラリーマンになる。「課長島耕作」の中で描かれる団塊世代の気分。そして突きつけられている現実。

 著者は団塊世代とそれに続く戦後世代を、『大人になることを拒否した世代』と規定する。なるほど確かにそうだろう。それまであった社会システムに「NO!」を突きつけ、ベビーブーム世代の数に物を言わしてすべてを無効化してしまった。しかしその後に、じつは何も新しいものは生まれてこない。資本主義経済の発達で豊かな生活が実現すると、「価値の多様化」という名目で、新しい何かなど作らなくても済んでしまったからだ。しかしそれは、大人になった団塊世代が自分たちより下の世代に向かって、はっきりしたことが何も言えない世の中を作ってしまった。

 『大人になることを拒否した世代』は見事にそれに成功して子供のままのオツムで身体ばかりが大きくなってしまったのだ。建前ばかりのきれいごとを無邪気に信じて現実と向き合うことをせず、他人に通用しない独りよがりで子供っぽい正義漢を振り回すのは、結局のところ「大人としての責任」を引き受けようとしない無責任からなのだ。

 僕自身は両親が団塊世代より少し前の世代だということもあるし、サラリーマン社会から早々に脱落したので、団塊世代というものをあまり身近に感じることはない。でも「団塊の世代」を切り口とした日本の戦後社会論として、これはなかなか面白い読み物だと思った。主張を立て板に水で論じつつ、時に急にくだけた物言いをする文体も笑いを誘う。そう、笑えるのだ。それがこの本のいいところだろう。(3/16)

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2005.03.15

世間のウソ

世間のウソ
日垣 隆


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 宝くじの的中確立、自殺報道、回転自動ドアの事故、鳥インフルエンザの危険性、中国の人身売買事件、少年犯罪事件など、さんざんニュースで報じられている出来事の裏側を、分析的な冷静な視線と裏読み、その検証などを通して探っていく。恣意的な報道の裏を読み取る、メディアリテラシーの教科書にもなりうる1冊。ひとつひとつの項目は短いので、あっという間に読めてしまう。その軽さが、僕には少々物足りなかった。

 あくまでも様々な事例を「紹介」しているだけで、そこから社会の裏側にある思想や制度の矛盾をえぐり出していくような迫力はない。この著者の他の本には、ほとんど怨念のような迫力を感じることがしばしばあるのだけれど、この本は「こんなことがありますよ。皆さんも考えてみれば?」「こんな報道はウソですから気をつけないとね」で終わっている。まあもともとそういうコンセプトの本なんでしょうけど。時間つぶしに読む本としては面白いし、この本をきっかけにして、個々の事例については他の本を読む(この著者の他の本を読んでもいい)という糸口にはなりそう。(3/15)

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2005.01.16

きらめく映像ビジネス!

きらめく映像ビジネス!
純丘 曜彰


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 映画の歴史から始まり、映画、テレビ、CM、ポルノ映画やアダルトビデオ、ミュージックビデオ、ビデオカタログなど、ありとあらゆる「映像ソフト」の作られ方について解説しつつ、映像メディアの過去・現在・未来を俯瞰した本。ひとつひとつの記述は大雑把で説明不足な点も多々あろうし、記述内容に乱暴な内容もあるだろう。しかし「映像ビジネス」をここまで幅広く視野に入れつつ、全体が一目で見えるように記述した類書は他になさそうだ。これが専門家向けの本ではなく、あくまでも一般向けの新書であることは重要。芸術映画からネット配信のポルノは連続している。ネット配信ポルノで作られた技術が、他のコンテンツ産業にフィードバックされる。そんな映像ビジネスのダイナミックさが伝わってくる良書。

 語り口としてはかつて一世を風靡したホイチョイプロダクションの「見栄講座」や、テレビ番組「金持ちA様×貧乏B様」などと同じ業界うちわけ話風でもあり、外部の人にとっても非常に読みやすい本になっている。しかしそのために物事をわかりやすく図式化しすぎている点があるし、うがちすぎなコメントも多いように見える。それがこの本独特のスピード感を生み出しているのだが、本当に映像ビジネスの内側を知りたいと思う人は、この本をきっかけに他の本も併読したほうがいいだろう。(1/16)

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2004.12.21

テレビの嘘を見破る

テレビの嘘を見破る
テレビの嘘を見破る
今野 勉

[:グッド:] テレビ番組の製作現場にいる著者(テレビマンユニオン取締役副会長)が、テレビ・ドキュメンタリーで使用される様々な工夫や演出テクニックを披露しながら、社会的な非難を受ける「やらせ」の問題について考えを述べている。僕はこれを“テレビ・ドキュメンタリー”に限らず、映画も含めた「ドキュメンタリー作品全般」についての論考として読んだ。

 本の最初に、ドキュメンタリー制作の現場で普通に行われている撮影上の「工夫」と、社会的な批判を浴びる「やらせ」の境界線はどこにあるのかという話が出てくる。そこで語られている数々の「実例」がじつに面白い。有名人のインタビューで、インタビューアーの相づちを後から撮って編集でつなげる話が出てくる。これは映画『ブロードキャスト・ニュース』でも再現されているので、僕はそういうものだろうと知っていたけれど、知らない人はまず気づかないだろう。(『ブロードキャスト・ニュース』はすごく面白い映画なので、まだ観たことのない人はぜひご覧あれ!)

 僕自身何度かラジオやテレビ取材を受けた経験があるため、本の中で紹介されている「再現」や「演出」については、なるほどそうしたことは日常的に行われているだろうという実感がある。例えば僕は今年の2月に牛丼が消えるという日、いくつかのテレビ番組から取材を受けたのだが、その中には予め連絡を受けて牛丼屋まで出向き、下打ち合わせをした上でたまたま店を訪れた一般客として牛丼を食べ、コメントするというものがあった。テレビを見ている人には事前の打ち合わせがわからないので、たまたまテレビが取材をしているときに、偶然店に入ってきた客のように見えただろう。ニュース番組の中の特集コーナーは「報道」の範疇にはいると思うのだが、そこでさえこうした仕込み取材が行われているわけだ。

 テレビ・ドキュメンタリーというのはドキュメンタリー映画から発生した映像表現であり、この本の中でもドキュメンタリー映画についての言及が多く参考になる。欧米では「再現映像」がドキュメンタリーの正当な表現手法として認められているという話には、目からウロコが落ちた思いがする。ロバート・フラハティ、レニ・リーフェンシュタール、亀井文夫、市川崑などが、ドキュメンタリーの中でいかに「再現」を巧みに使っているかなど、知っている話も多いけれど、これをテレビ・ドキュメンタリーの「やらせ」と並べて論じるとかなり刺激的な内容になってくる。

 原一男の『ゆきゆきて、神軍』やマイケル・ムーアの『華氏911』など、日本の映画ファンもよく知っている映画のタイトルが出てきて、その問題点について語られている。本のタイトルは「テレビ」となっているが、これはドキュメンタリー映画を観るときのよい手引き書にもなるはずだ。(12/21)

ブロードキャスト・ニュース
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2004.11.22

コーランを知っていますか

コーランを知っていますか
コーランを知っていますか
阿刀田 高

[:しょんぼり:] これまでに同じ作者の「旧約聖書を知っていますか」「新約聖書を知っていますか」を読んでいるが、今回の本はそれらに比べるとまるで面白くない。過去のシリーズ作品(他に「ギリシア神話を知っていますか」「ホメロスを楽しむために」「シェイクスピアを楽しむために」「アラビアンナイトを楽しむために」などがある)と今回の本を比べると、今回は原典をそのまま何の工夫もせずに丸ごと引用している箇所が多すぎる。原典を阿刀田流に噛み砕き、感想を述べたり、再解釈して読者に提示するというのがこれまでのスタイルだったのに、今回は「引用」「解説」「引用」「解説」ばかりで、著者の個人的な見解や解釈があまりにも少ないのだ。またかろうじて個人的見解を述べている場面でも、その声はあまりにも小さくおどおどしている。

 この本のもととなった原稿は、小説新潮の2002年9月号から翌6月号まで連載されていたものだ。この時期にコーランの解説をするというのは、もちろん2001年9月11日の同時多発テロで、イスラム原理主義が注目を浴びたことを受けてのものだろう。その結果、著者は「日本人にあまり知られていないコーランを正しく紹介しなければ」と思ったに違いない。しかし正しく紹介するのは、原文の中から一部を抜粋して、そのまま引用することなのか? いくらコーランが本来的には翻訳すら許されない神の言葉の記録だとしても、イスラム教徒ではない日本人の小説家が、同じくイスラム教徒ではない日本人読者にコーランを紹介する際、ここまで馬鹿丁寧に原典を重視しなくてはならないのか?

 結局この本は、コーランの解説書でもなく、イスラムの解説書でもない、どっちつかずの中途半端なものになってしまっているのではないだろうか。コーランの引用を全編に散りばめつつ、ごく一般的に売られている「イスラム教入門」の知識を水で薄めて地の文にまぶし、阿刀田高風の文体でまとめたのがこの本だろう。この本でもっとも面白いのは、マホメット死後のイスラム共同体分裂を解説した9章「君去りし後」と、著者のサウジアラビア訪問記である10章「聖典の故里を訪ねて」だ。このふたつの章には、コーランの生の引用がほとんど含まれていない。(11/22)

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2004.11.16

プロジェクトX リーダーたちの言葉

プロジェクトX リーダーたちの言葉
プロジェクトX リーダーたちの言葉
今井 彰

[:嬉しい:] NHKの人気テレビ番組「プロジェクトX」の中から、プロジェクトリーダーたちの印象的な言葉を軸に構成し直したダイジェスト版。人間ドラマの細かなディテールは味わうべくもないが、現場を仕切ったリーダーたちの言葉に宿る千金の重みには唸るような迫力がこもっている。いわばこれは、「プロジェクトX」を濃縮して上澄みだけをすくい上げたようなもの。ひとつひとつのエピソードが短くまとめられているので、通勤途中など小間切れの時間に読む本にぴったりだ。だがこれは軽い読み物ではない。この中には実際に生きて汗と涙を流してきた男たち(そして女たち)の生々しい人生の記録がある。この中の言葉のどれかひとつでも心に残れば、この本の価値はあると思う。(11/16)

※この本は現在文庫化されている。

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今井 彰

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2004.10.07

知っているつもりで説明できないニュースのことば

知っているつもりで説明できないニュースのことば
知っているつもりで説明できないニュースのことば
池上彰著

[:嬉しい:] コンパクトにまとめられた時事用語集。完全に中立な立場から書かれているように見えて、じつは著者の価値観や思想がそれとなく散りばめられているというのが面白い。こういうものは、無味乾燥な辞書みたいな文章になると、読み物としての面白味がなくなってしまう。1項目3ページぐらいで説明してあるのでスイスイ読めるのだが、もう少し突っ込んで説明してくれる方が、次の知識につながって行きやすいんじゃないかなぁ……と思うところもある。間違いは書いてないんだけど、やけにあっさりと説明を切り上げているのが物足りないような気も。しかしこれは、このあっさりしたところが利点なのだろう。「週刊こどもニュース」もそうだもんね。(10/7)

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2004.09.30

子どものニュースウイークリー〈2004年版〉

子どものニュースウイークリー〈2004年版〉
子どものニュースウイークリー〈2004年版〉
読売新聞社会部

[:男:] 新聞連載を1冊にしたもの。ニュースの中の言葉を解説するという成り立ちゆえに、1年分をまとめて本にする頃には見出しが古びてしまうという欠点がある。出版された直後でも、見出しは1年前の言葉。書籍としての命がものすごく短いことを運命づけられている本だ。あまりにもタイムリーな話題を取り上げるがゆえに、「時事解説」風の記事はどうしようもなく古くなってしまう。ただし事件を切り口に社会の成り立ちや制度の背景などに切り込んでいく記事は、あと数年は読む価値があるだろう。(9/30)

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2004.07.14

だれが「本」を殺すのか〈下〉

だれが「本」を殺すのか〈下〉
だれが「本」を殺すのか〈下〉
佐野 真一

[:嬉しい:] 文庫化にあたって追加された「検死編」を読むために購入した。レンタルコミックの貸与権、図書館の公共貸与権、自費出版商法の話、ICタグ問題など、新しい話題がずいぶん増えている。ただし本をめぐる環境は、単行本時と本質的な違いはない。(7/14)

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