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2013.01.24

映画|故郷よ

13012402 HPのアドレスにkokyouyoとあるので、タイトルは「こきょうよ」と読むのだろう。「ふるさとよ」とも読めるので、こういう映画はタイトルにルビを振っておいてほしい。チェルノブイリ原発事故についての映画だ。物語の舞台になっているのは、原発から3キロほど離れたプリピャチの町。自然に囲まれた小さな町は、住民のほとんどが原発で働いている。その中で映画の主人公になるのは、事故の起こった日に恋人と結婚式を挙げたばかりの若い女性。事故の前日に父親と川辺でりんごの樹を植えた少年。少年の父親の原発技術者。映画は原発事故当日の町の様子と、町民たちがバスに乗せられて強制的に避難させられていく様子が描かれる。それが全体の3分の1ぐらい。それが終わると、映画は10年後の廃墟になった町の様子を描く。町から離れても、町に住んでいた人たちの心はそこから離れられない。事故で結婚したばかりの夫を亡くした女性は、原発ツアーのガイドをしている。幼い少年は青年になり、事故の日以来行方不明になった父を探している。家族と別れた原発技師は精神に異常をきたし、町に戻る道を見失って今も旅を続けている。原発事故という見えない脅威と、それが破壊してしまう人々の暮らしは、日本の福島原発事故にも通じるものだ。映画に登場するプリピャチの廃墟は本物。その印象を一言で表現すれば「むごたらしい」と言うしかない。

(原題:La terre outragée)

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映画|カルテット! 人生のオペラハウス

13012401 引退した音楽家が集まる老人ホームを舞台に、ホームの運営資金集めのコンサート準備をする元音楽家たちの姿を描くコメディ。中心になるのは、マギー・スミス、トム・コートネイ、ビリー・コノリー、ポーリーン・コリンズの四人組。ダスティン・ホフマンの監督デビュー作だが、本人は監督に専念して今回は出演なし。本人もそれなりの年なんだから、どこかにワンシーンぐらい出演してくれればファンサービスになったろうに。IMDbで確認したが、匿名での出演もなかったようだ。主役クラスの4人や芝居の多いマイケル・ガンボンなど数名を除くと、ホームの老人たちのほとんどは本物の元音楽家たち。引退したとはいっても彼らにとって音楽は生活の一部なので、ホームのあちこちで即興的な演奏がいつでも行われているという設定だ。そんなわけで、この映画の演奏シーンはほとんどが本物だと思う。では主人公たちの歌声はどう再現するかというと……、それは映画を観てのお楽しみ。なお老人ばかりが登場するイギリス映画というと、つい先日『マリーゴールド・ホテルで会いましょう』を観たばかりだが、どちらの映画にも出演しているのはマギー・スミスだ。

(原題:Quartet)

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2013.01.22

映画|よりよき人生

Yoriyoki_jinse 一流の料理人として独立開業することを夢見てきた男が、恋人と一緒に湖畔の廃屋を改造したレストランを作る。だが開業資金のために借金を重ねてしまい、レストラン開店は暗礁に乗り上げてしまう。だが男は店を手放すことができない。恋人は息子を男に預けて海外まで働きに行くが、やがて連絡が取れなくなってしまう。慣れない子育て。音信不通の恋人。そして借金の重圧。男はどんどん身動き取れなくなってしまう……。セドリック・カーン監督の新作で、主演はギヨーム・カネ。夢を諦めきれないそのため男が借金苦に陥り、恋人やその子供までも不幸にしてしまうという暗い話だが、困難な中で新しい家族の誕生を描く映画の後味は悪くない。主人公が必ずしも品行方正な好青年ではなく、我がままで、向こう見ずで、時には暴力を振るったり、暴言を吐いたり、女にだらしなかったりする、欠点だらけの人間として描かれているのもいい。彼の恋人にも欠点はある。息子にもだ。どれほど欠点だらけでも、幸せを求める権利はある。映画の最後に、彼らは当初自分たちが思っていなかったような形で、本当の幸せを手にするのだ。

(原題:Une vie meilleure)

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映画|バチェロレッテ あの子が結婚するなんて!

Bachelorette 独身最後の夜に、花婿となる男とその友人たちが馬鹿騒ぎをするバチェラーパーティー。バチェラーは独身男のことだが、そこから派生した独身女性を意味する言葉がバチェロレッテ。独身最後の夜には花嫁になる女性がやはり馬鹿騒ぎをして、これをバチェロレッテパーティーと呼ぶらしい。バチェラーパーティをモチーフにした映画と言えば『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』だが、この『バチェロレッテ あの子が結婚するなんて!』はいわばその女性版。ストーリーはまったく異なるが、主役であるはずの花嫁そっちのけで、友人の独身女たちがてんやわんやの大騒ぎを繰り広げるという点は同じだ。どちらの映画もアルコール度数がかなり高い。そして卑猥で下品。男が卑猥で下品なのは笑って見ていられるが、同じことを女性がやるとあまり笑えないというのがこの映画の発見だ。女性たちが酔っ払って締まりのない顔を見せたり、嫉妬や怒りで顔を引きつらせる姿はまるで美しくない。可愛くもない。少しも魅力的に見えない。映画の中の女性たちに、常に美しくあれ、可愛くあれ、魅力的であれと要求するのは、一種の女性差別だろうか……。女性が観ると面白いのかなぁ。

(原題:Bachelorette)

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2013.01.21

映画|フライト

Flight 骨太のドラマ作品で、いい映画だと思う。しかしロバート・ゼメキスの実写映画は『キャスト・アウェイ』以来12年ぶりだそうで、監督としての腕が多少錆び付いているような気がしないでもない。悪くはないが、秀でて素晴らしい場面というのがあまりないのだ。映画としてもジャンルが不明確な作品で、演出家としては力を入れるべきポイントがわかりにくいのかもしれないし、観客の側もどこで面白がればいいのかわかりにくいという面もある。飛行機事故にまつわるパニック映画でもないし、事故の真相究明を巡るミステリーでもないし、異色の法廷ドラマというわけでもない。あえて言うなら、これは人間の弱さについての物語だ。アル中でヤク中の主人公が、いかにしてそれを克服するかという、きわめてパーソナルなドラマなのだ。そのどうしようもなくパーソナルな物語が、乗員乗客102名を乗せたジェット旅客機が事故を起こして不時着するという大事件に接ぎ木されている。映画の予告編を見て劇場に足を運んだ人の多くは、「あれれ? こんな映画だとは思わなかったぞ」と思うに違いない。

(原題:Flight)

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2013.01.18

映画|愛、アムール

Amour パリの高級アパートに、警官隊が飛び込んでくるオープニング。人の気配がない室内には異臭が漂い、やがて警官たちはベッドの上に横たわる老女の遺体を発見する。だがそれ以外に、室内に人はいない。物語はここから文字だけの簡素なタイトルを経て過去に戻り、年老いた音楽家夫婦の暮らしを描き出していく。妻が病にかかり、半身不随になる。病院に戻りたくないという妻の必死の願いを聞き入れて、夫は妻を自宅で介護することに決めるのだが……。フランス版老老介護の物語であり、その先にある悲劇が映画の冒頭で明示されている。だがこれは老人たちが老老介護の果てに疲れ果ててしまったという映画ではない。彼らには別の選択がいくらでもあったが、あえて自分たちで苦しい道を選んだのだ。そうすることが夫の妻に対する愛情であり、妻はその夫に対してすべてを委ねる。監督のミヒャエル・ハネケは何かと物議を醸す作品ばかり撮る監督だが、今回の映画で一番挑発的なのは、映画の最後をハッピーエンドとして描いていることだろう。異論もあると思うが、僕はこれをハッピーエンドだと思う。イザベル・ユペールが部屋に入ってくる場面が、とても爽やかに描かれているものね。

(原題:Amour)

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2013.01.17

映画|先祖になる

Senzoninaru 東日本大震災の津波被害で、多くの集落が丸ごと流されることになった陸前高田市。そこに避難所や仮設住宅への移転を拒み、被害を受けた自宅を新たに建て直そうとする77歳の老人がいた。池谷薫監督のドキュメンタリー映画だが、ニュース報道では見落とされがちな被災地住民の個性にピンスポットを当てる面白さがある。映画の主役となる佐藤老人は、強烈な個性の持ち主だ。本人曰く頑固一徹。こうと決めたらテコでも動かない。これは個性などと生ぬるい言い方をせずに、強烈なエゴの持ち主だと言った方がいいかもしれない。この場合のエゴは、悪い意味で言っているいるわけではない。この強烈なエゴが、77歳の老人の生きるエネルギー源でもあるのだ。だがその強烈なエゴは、結果としては周囲の人間を振り回していく。老人は仮設住宅への転居を拒んで、津波被害で穴だらけになった自宅に住み続け、そんな夫に愛想を尽かした妻とは別居することになってしまった。妻は全壊した家が嫌で出ていったわけではない。その証拠に、家が新築されても妻は戻ってこない。老人の強烈なエゴに、ほとほと嫌気がさしてしまったのだろう。家が再建されて、家族が再会して和解すれば大団円のハッピーエンドになっただろうに、そうならないところにこの映画の面白さ、想定されたシナリオ通りには動かない人間の面白さがあると思う。

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映画|横道世之介

Yokomichi 主人公の横道世之介が東京の大学に進学するため上京するところから物語が始まり、1986年頃から1988年頃までの彼の大学生活と、彼と関わりを持った人たちの15年後を描いていく。主人公の横道は「普通の人」だ。特別な能力があるわけでもないし、特別な人徳があるわけじゃない。どこにでもいる、普通の大学生。でもそんな彼が、周囲の人たちの記憶の中に少しずつ、小さな人生のかけらのようなものを振りまいていく。親友だった旧友とは音信不通になり、恋人とも別れて長く連絡を取らなくなる。学生時代には人間関係の大部分を占めていた濃密な存在感は、その一時期を過ぎてしまえば疎遠なものになり、人生の中の小さなエピソードの断片になってしまうのだ。だが、それが忘れ去られることはない。思い出すことは少なくなっても、その記憶はずっと残り続ける。この映画は誰もが通り過ぎる「取り立てて自慢することもない普通の青春時代」の物語であり、「通り過ぎれば思い出すこともない仲間たち」の物語だ。僕も世之介と同じ時代を、ほぼ同世代の人間として過ごしている。世之介は1968年生まれで、僕は1966年生まれ。世之介が大学に入った年、僕は東京のデザイン会社に入社した。世之介が呼吸した東京の空気を、僕も同じように呼吸していた。それから20数年たって、僕はその頃のことを思い出すことも少なくなっている。だが忘れたわけじゃない。この映画を観て、四半世紀以上前の自分のことを、ちょっと思い出したりした。

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2013.01.16

映画|王になった男

Ouninattaotoko アイヴァン・ライトマンのコメディ映画『デーヴ』(1993)を、韓国の時代劇に翻案した作品と考えるべきだろう。ただし『デーヴ』はコメディだったが、『王になった男』はそれよりずっとシリアスな歴史ドラマだ。企画の核としては『デーヴ』があり、それをあれこれいじくり回しているうちに別方向に発展したのか、それとも元々は別の企画からスタートしたものが、脚本を作る過程で『デーヴ』を参考にしたのかは不明。影武者を主人公にした映画にはもちろん黒澤明の『影武者』などもあるわけで、この映画ではそのアイデアも一部借用している。まあそういう意味であちこちのアイデアに新鮮味はないが、豪華なセットと衣装でまったく別の世界観に仕立て直し、立派な歴史ドラマにしているのは大したもの。なお『デーヴ』に似ているという指摘は当然韓国でも上がっていたようだが、この点について質問された監督は、それについて強く否定はしていないようでもある。僕は『デーヴ』の方が好きだけど、この映画の製作者たちもきっと『デーヴ』が好きで、その韓国版を作りたかったんだろうな。本家の『デーヴ』より少しウェットで、悲観的で、血なまぐさいのが、韓国的なのかもしれない。

(原題:광해, 왕이 된 남자)

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映画|キャビン

Cabin ホラー映画のパターンを熟知しながら、それをひっくり返したり、逆手を取ったり、フェイントをかけたりして観客をビックリさせたり驚かせたりするというのは、『スクリーム』以来のホラー映画のひとつの流れ。その行き着く先に、こういう映画ができちゃいました……という作品。物語の大きなアイデア自体は、諸星大二郎の短編作品に似たようなものがあったので、特に大きな衝撃を受けるとか、物凄く新鮮に感じるということはない。発想としてはポランスキーの『ローズマリーの赤ちゃん』や『ナインスゲート』も同系統の作品かもしれない。あまり言うとネタバレになりそうなのでやめておくが、いずれにせよ、このアイデア自体はこれ1回しか使えない。あっと驚く新境地だ。ホラー映画が好きな人は、必ず見ておいた方がいい。安っぽいえいがかと思って舐めているとさにあらずで、冒頭からいきなりアカデミー賞にノミネートされたこともある名優リチャード・ジェンキンスと、ベテラン俳優ブラッドリー・ウィットフォードが出てきていい芝居をする。それだけでなく、映画の終盤には誰もがあっと驚くような有名俳優がワンシーンだけ出演してびっくり仰天。このシーンでは映画を観ながら「えっ?なんで??」と、あっけにとられてしまった。IMDbなどを調べれば誰が出てるかはすぐわかるはずだが、プレス資料にも名前はあえて表記されていないので、これについてはここでは伏せときます。映画観て驚いてください。

(原題:The Cabin in the Woods)

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映画|ダイナソー・プロジェクト

Dainasoproject アフリカで発見された未確認生物の正体を探るため、イギリスの探検家チームがテレビクルーを引きつれて現地入り。だが彼らの消息はそのまま途絶え、バックパックに入れて川に流された映像記録だけが発見される。この映画は100時間に及ぶその映像を再編集したものである……。という体裁のモキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)だが、ドキュメンタリー映画らしさという点でまったくリアリティに欠け、見ていて最初から最後まで白けてしまった。例えば「この映画は発見された映像だけで構成されている」と言った途端に、画像データの入ったザックを回収する場面が出てくる。このシーンはどう考えても、発見されたデータの中にはないよね。また映画の最後には、データ入りのHDDを厳重に梱包して川に流すシーンが出てくる。でもこの映像は流してしまったザックの中には入っていないわけだから、いったいどこからどうやって発見されたんだろうか。内容もくだらない親子の対立と確執を延々見せられたりして、100時間もビデオがあるならもっと恐竜をたくさん見せろっての。恐竜を見せずに、ずっとカメラに向かって語りかけ続ける絵が続くのもおかしいだろう。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や『パラノーマル・アクティビティ』、『REC』など、この手の映画には成功作がいくつもある。だがこの映画は、そうした先行事例にまったく学んでいないのだ。

(原題:The Dinosaur Project)

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2013.01.15

映画|八月の鯨

Hachibatsunokujira 日本では1988年に岩波ホールで公開され、ミニシアターブームの中で大ロングランを記録した作品。今回は日本公開時の字幕を再現し、画面サイズはスタンダードでの上映。これはIMDbを見るとアスペクト比が1.85:1(アメリカンビスタ)になっていて、昨年発売されたDVDは1.78:1(ハイビジョンサイズ)になっている。本来の画面サイズが何なんだかよくわからないが、たぶんスタンダードで撮影して上下マスクかけてビスタ。日本公開版はマスクなしなのだろうか。いずれにせよスタンダードサイズでこの映画が観られる機会はそうそうなさそうだが、舞台劇風に人物が出入りし(原作は舞台劇なのだ)、ベテラン俳優たちのしっとりした芝居を積み重ねていく作りは、テレビ映画みたいだなぁ……と思ったりはする。俳優たちの演技が素晴らしいのはよくわかるが、映画のテーマである老いの問題が僕にはまだぴんと来ない。直前に『草原の椅子』を観ていて、その50歳の男たちはよくわかったのだが、『八月の鯨』は僕にはまだだいぶ距離がある映画だった。リリアン・ギッシュはこの映画の完成時に89歳。それでもグリフィスの映画に出ていた頃の面影がまだ片鱗として残っている、じつにチャーミングなおばあちゃまでした。

(原題:The Whales of August)

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映画|草原の椅子

Sogennoisu 宮本輝の同名小説を成島出監督が映画化したドラマ作品。佐藤浩市扮する主人公がカメラメーカーの社員で、その親友がカメラ販売店の社長という設定。主人公が想いを寄せる女性が新しくカメラを買って、主人公との距離が縮まっていく。いろいろなところで、カメラが重要な役回りを果たす作品。劇中に登場するカメラは、主人公が若いカメラマンにプレゼントしたのがキヤノンのF-1。主人公が使っているのは一眼レフで、ストラップを見る限りではキヤノンのEOSのようだ。ヒロインが使っているのはオリンパスのPEN(当然デジタル版)。カメラ屋の社長が使っているのは、RICOHのような気もするけど、機種まではよくわからなかった。そのうちカメラ雑誌に記事が出るかも(既に出ているかな)。この映画を観ていると、カメラを持ってどこか遠くに旅行に出かけたくなる。ドラマ作品としてもなかなか面白かった。50歳という年齢は僕にとってもすぐ近くに迫っている年齢で、ぜんぜん他人事じゃないのだ。古瀬美智子はこういうちょっと影がある役が似合うね。

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2013.01.11

映画|ライフ・オブ・パイ トラと漂流した227日

Lifeofpi 太平洋上で難破した船から、救命ボートで何とか脱出することができたインド人の少年パイ。だがそのボートの上には、凶暴なベンガルタイガーが同乗していた。物語も面白いのだが、映画は映像がすごい。この映像美は一見の価値ありだ。アカデミー賞では映像関係の賞(美術賞や特殊効果賞)を受賞するのではないだろうか。嵐で船が沈没するシーンなどは当然CGだろうが、登場するベンガルタイガーもほとんどCG。これがもう本物にしか見えないクオリティなのには驚いてしまう。CGアニメの技術的な進歩もすごいが、その技術を使って本物にしか見えないトラを作り上げたアニメーターたちもすごいし、実際の撮影で見えないトラを相手に組んずほぐれつの熱演をしたスラージ・シャルマも大したものだ。有名な俳優がほとんど出てこない映画だが、ジェラール・ドパルデューがワンシーンだけ登場する。しかしながらこのワンシーンだけで強烈な印象。これが映画の結末で語られるエピソードの伏線になっているのには驚いた。原作の邦題「パイの物語」もいいタイトルだと思うが、映画は原題をそのままカタカナにしたもの。「Life」という言葉が持つ多様な意味(命、人生、生活、伝記など)が、このタイトルの中に込められていると思う。

(原題:Life of Pi)

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映画|マリーゴールド・ホテルで会いましょう

Marigoldhotel ジュディ・デンチ、ビル・ナイ、トム・ウィルキンソン、マギー・スミスなど、豪華キャストのアンサンブルが楽しめるヒューマンコメディ。イギリスからインドのおんぼろホテルにやってきた7人の老人たちが、昔の恋人と再会したり、新しい仕事を始めたり、新しい恋に出会ったりする物語。中心になるのはジュディ・デンチだが、他の人物たちのエピソードもバランスよく配置されていて面白い。老人たちの話ばかりだと重たくなりそうだが、そこにホテル再生の夢に邁進する青年とその恋人の話がからめてあるのもうまい。監督は『恋に落ちたシェイクスピア』のジョン・マッデン。インドは訪問した人がインド大好きになるか、逆にインド大嫌いになるかのどちらかだと聞いたことがある。この映画はもちろん映画を観た人が「インド大好き」になるわけだが、登場人物の中には逆にインド大嫌いになる人もいたりして、そのあたりはウソがない映画だと思った。

(原題:The Best Exotic Marigold Hotel)

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2013.01.09

映画|きいろいゾウ

Kiiroizo 向井理と宮崎あおいが、田舎暮らしを始めたばかりの若い夫婦を演じるドラマ作品。そこでふたりの過去がいろいろあって、ふたりの抱えた心の傷みたいなものや、互いの秘密みたいなものがあってドラマが展開していくわけだが、それより映画を観ていて思ったのは、「よくもまあ、何もない田舎暮らしをここまでおしゃれに撮るものだわい」ということ。古びた民家があり、目の前に小川が流れていて、食卓に載る食材は豊かで、タイル張りのテーブルや、蚊帳を吊った寝床があって、蔵の中には古道具が一杯詰まってて、羽釜でご飯を炊いて、庭の畑で野菜を作って食べる。荻上直子監督が『かもめ食堂』や『めがね』でやってみせた「おしゃれな暮らし」が、普通の日本の田舎でも成立してしまうという面白さ。こういう映画を観ると、田舎で暮らすのも悪くないかなぁと思っちゃう人が出てくるかも。いや、田舎暮らしも悪くはないと思うけどね。僕はできないけど。田舎は車が必需品だけど、僕は免許がないもんで……。

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映画|ジャッジ・ドレッド

Dredd シルヴェスター・スタローン主演の『ジャッジ・ドレッド』から17年たってのリブート作品。主人公のドレッドが最初から最後までずっとヘルメットを被っているため、主演のカール・アーバンは顔が一度も出てこない。一方で女性ジャッジを演じたオリヴィア・サールビーは、最初から最後までヘルメットなしで通すという対称的な姿。映画は3D公開なのだが、今回試写を行った東映試写室は3D対応になっていないのか2D版での映写。でもこれは3Dで見てみたかった。1時間35分の上映時間が最初から最後まで徹底してアクションのみで埋め尽くされるという映画なので、3Dだと見栄えがしそうだ。映画のストーリーは主人公たちがギャングの巣窟であるビルに監禁状態隣、大勢の敵たちを相手に戦うというもの。これは少し前に観たインドネシア映画『ザ・レイド』に似た設定。『ザ・レイド』はハリウッド・リメイクの話もあったようだけど、ハリウッド版『ザ・レイド』の前に『ジャッジ・ドレッド』を観ちゃえば、それで十分かもしれない。

(原題:Dredd)

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2013.01.08

映画|奪命金

Datsumeikin ギリシャの金融危機に右往左往する香港の人々を描いたジョニー・トー監督作。立場がまったく異なる複数の人物を同時に動かしていくグランドホテル形式で、主人公になるのはヤクザ組織で使い走りをさせられている義理堅い男ラウ・チンワン、事件捜査に振り回される刑事リッチー・レンとその妻ミョーリー・ウー、金融商品セールスのノルマに苦しめられる銀行員のデニス・ホー。これらの人物を結びつけるのが、高利貸しのロー・ホイパンが持つ大量の現金。香港ドルなのでとっさに価値がわかりにくいのだが、現在の為替レートだと1香港ドルが11円ぐらい。500万香港ドルは5,500万円になる。これは確かに大金だ。結局最終的には、地道に、素朴に、正直に生きてきた人間が報われるという、結構道徳的な結末になっている。この手の群像劇は登場人物の誰かに自分を重ね合わせるようにできているのだが、僕が今回とても同情してしまったのは、老後の資金をハイリスクの金融商品ですっかり失ってしまうおばあちゃん。あ、でも彼女は最後に結局救われたということなのかな……。

(原題:奪命金 Life without Principle)

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映画|アウトロー

Outlaw トム・クルーズ主演のシリーズ・アクション映画第1弾。最近は映画の企画段階で「シリーズ化可能か否か」が重要視されるそうだが、この映画は原作がまだまだたくさんあるのを当て込んでのものだろう。『ミッション・インポッシブル』シリーズのイーサン・ハントは国家権力の内部で最新ツールとチームプレイを駆使して強敵に挑んでいたが、こちらはそうした縛りを徹底的に嫌う一匹狼。難事件を推理する「探偵もの」の体裁になっているが、主人公が体制側のルールを平気ではみ出して行動するのが面白い。ただしその面白さが、トム・クルーズの大スター・オーラを前にして霞んでいる部分がなきにしもあらずか。映画の終盤で主人公が「え?なんで??」という振る舞いに出るあたりは、本来なら主人公の自由人たる面目躍如なのだが、そのへんのいい意味での我が侭さや傲慢さが、トム・クルーズの笑顔でかき消されてしまっている部分もあるんじゃないだろうか。アウトローであり、危険なヒーローであるはずが、この1作目からもう体勢順応型になりはじめているようで、それがちょっと気になったりはする。まあ安心して観ていられるけど、これだとイーサン・ハントが休暇中に片付けた事件みたいに見えちゃうんだよな。

(原題:Jack Reacher)

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2013.01.07

映画|ある海辺の詩人 小さなヴェニスで

Umibenoshijin 中国からイタリアに働きに来ているシングルマザーの中国人女性が、働きはじめた港町の酒場で仲間たちから詩人と呼ばれる初老の漁師と知り合いになる。彼は旧ユーゴスラビアからの移民であり、ヒロインも親の代までは先祖代々漁師という家柄。ふたりは急速に親しくなるが、そんな関係を周囲の誰も歓迎しなかった……。恋愛ドラマと呼ぶにはあまりにも淡い、異郷の地で知り合った大人同士の心の交流。中国語と片言のイタリア語でヒロインを演じたチャオ・タオが好演。老漁師を演じたのはハリウッド映画でも活躍しているラデ・シェルベッジア。映画の舞台になっている港町、キオッジャの風景が魅力的。

(原題:Io sono Li)

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