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2013.01.18

映画|愛、アムール

Amour パリの高級アパートに、警官隊が飛び込んでくるオープニング。人の気配がない室内には異臭が漂い、やがて警官たちはベッドの上に横たわる老女の遺体を発見する。だがそれ以外に、室内に人はいない。物語はここから文字だけの簡素なタイトルを経て過去に戻り、年老いた音楽家夫婦の暮らしを描き出していく。妻が病にかかり、半身不随になる。病院に戻りたくないという妻の必死の願いを聞き入れて、夫は妻を自宅で介護することに決めるのだが……。フランス版老老介護の物語であり、その先にある悲劇が映画の冒頭で明示されている。だがこれは老人たちが老老介護の果てに疲れ果ててしまったという映画ではない。彼らには別の選択がいくらでもあったが、あえて自分たちで苦しい道を選んだのだ。そうすることが夫の妻に対する愛情であり、妻はその夫に対してすべてを委ねる。監督のミヒャエル・ハネケは何かと物議を醸す作品ばかり撮る監督だが、今回の映画で一番挑発的なのは、映画の最後をハッピーエンドとして描いていることだろう。異論もあると思うが、僕はこれをハッピーエンドだと思う。イザベル・ユペールが部屋に入ってくる場面が、とても爽やかに描かれているものね。

(原題:Amour)

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2013.01.17

映画|先祖になる

Senzoninaru 東日本大震災の津波被害で、多くの集落が丸ごと流されることになった陸前高田市。そこに避難所や仮設住宅への移転を拒み、被害を受けた自宅を新たに建て直そうとする77歳の老人がいた。池谷薫監督のドキュメンタリー映画だが、ニュース報道では見落とされがちな被災地住民の個性にピンスポットを当てる面白さがある。映画の主役となる佐藤老人は、強烈な個性の持ち主だ。本人曰く頑固一徹。こうと決めたらテコでも動かない。これは個性などと生ぬるい言い方をせずに、強烈なエゴの持ち主だと言った方がいいかもしれない。この場合のエゴは、悪い意味で言っているいるわけではない。この強烈なエゴが、77歳の老人の生きるエネルギー源でもあるのだ。だがその強烈なエゴは、結果としては周囲の人間を振り回していく。老人は仮設住宅への転居を拒んで、津波被害で穴だらけになった自宅に住み続け、そんな夫に愛想を尽かした妻とは別居することになってしまった。妻は全壊した家が嫌で出ていったわけではない。その証拠に、家が新築されても妻は戻ってこない。老人の強烈なエゴに、ほとほと嫌気がさしてしまったのだろう。家が再建されて、家族が再会して和解すれば大団円のハッピーエンドになっただろうに、そうならないところにこの映画の面白さ、想定されたシナリオ通りには動かない人間の面白さがあると思う。

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映画|横道世之介

Yokomichi 主人公の横道世之介が東京の大学に進学するため上京するところから物語が始まり、1986年頃から1988年頃までの彼の大学生活と、彼と関わりを持った人たちの15年後を描いていく。主人公の横道は「普通の人」だ。特別な能力があるわけでもないし、特別な人徳があるわけじゃない。どこにでもいる、普通の大学生。でもそんな彼が、周囲の人たちの記憶の中に少しずつ、小さな人生のかけらのようなものを振りまいていく。親友だった旧友とは音信不通になり、恋人とも別れて長く連絡を取らなくなる。学生時代には人間関係の大部分を占めていた濃密な存在感は、その一時期を過ぎてしまえば疎遠なものになり、人生の中の小さなエピソードの断片になってしまうのだ。だが、それが忘れ去られることはない。思い出すことは少なくなっても、その記憶はずっと残り続ける。この映画は誰もが通り過ぎる「取り立てて自慢することもない普通の青春時代」の物語であり、「通り過ぎれば思い出すこともない仲間たち」の物語だ。僕も世之介と同じ時代を、ほぼ同世代の人間として過ごしている。世之介は1968年生まれで、僕は1966年生まれ。世之介が大学に入った年、僕は東京のデザイン会社に入社した。世之介が呼吸した東京の空気を、僕も同じように呼吸していた。それから20数年たって、僕はその頃のことを思い出すことも少なくなっている。だが忘れたわけじゃない。この映画を観て、四半世紀以上前の自分のことを、ちょっと思い出したりした。

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2013.01.16

映画|王になった男

Ouninattaotoko アイヴァン・ライトマンのコメディ映画『デーヴ』(1993)を、韓国の時代劇に翻案した作品と考えるべきだろう。ただし『デーヴ』はコメディだったが、『王になった男』はそれよりずっとシリアスな歴史ドラマだ。企画の核としては『デーヴ』があり、それをあれこれいじくり回しているうちに別方向に発展したのか、それとも元々は別の企画からスタートしたものが、脚本を作る過程で『デーヴ』を参考にしたのかは不明。影武者を主人公にした映画にはもちろん黒澤明の『影武者』などもあるわけで、この映画ではそのアイデアも一部借用している。まあそういう意味であちこちのアイデアに新鮮味はないが、豪華なセットと衣装でまったく別の世界観に仕立て直し、立派な歴史ドラマにしているのは大したもの。なお『デーヴ』に似ているという指摘は当然韓国でも上がっていたようだが、この点について質問された監督は、それについて強く否定はしていないようでもある。僕は『デーヴ』の方が好きだけど、この映画の製作者たちもきっと『デーヴ』が好きで、その韓国版を作りたかったんだろうな。本家の『デーヴ』より少しウェットで、悲観的で、血なまぐさいのが、韓国的なのかもしれない。

(原題:광해, 왕이 된 남자)

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映画|キャビン

Cabin ホラー映画のパターンを熟知しながら、それをひっくり返したり、逆手を取ったり、フェイントをかけたりして観客をビックリさせたり驚かせたりするというのは、『スクリーム』以来のホラー映画のひとつの流れ。その行き着く先に、こういう映画ができちゃいました……という作品。物語の大きなアイデア自体は、諸星大二郎の短編作品に似たようなものがあったので、特に大きな衝撃を受けるとか、物凄く新鮮に感じるということはない。発想としてはポランスキーの『ローズマリーの赤ちゃん』や『ナインスゲート』も同系統の作品かもしれない。あまり言うとネタバレになりそうなのでやめておくが、いずれにせよ、このアイデア自体はこれ1回しか使えない。あっと驚く新境地だ。ホラー映画が好きな人は、必ず見ておいた方がいい。安っぽいえいがかと思って舐めているとさにあらずで、冒頭からいきなりアカデミー賞にノミネートされたこともある名優リチャード・ジェンキンスと、ベテラン俳優ブラッドリー・ウィットフォードが出てきていい芝居をする。それだけでなく、映画の終盤には誰もがあっと驚くような有名俳優がワンシーンだけ出演してびっくり仰天。このシーンでは映画を観ながら「えっ?なんで??」と、あっけにとられてしまった。IMDbなどを調べれば誰が出てるかはすぐわかるはずだが、プレス資料にも名前はあえて表記されていないので、これについてはここでは伏せときます。映画観て驚いてください。

(原題:The Cabin in the Woods)

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映画|ダイナソー・プロジェクト

Dainasoproject アフリカで発見された未確認生物の正体を探るため、イギリスの探検家チームがテレビクルーを引きつれて現地入り。だが彼らの消息はそのまま途絶え、バックパックに入れて川に流された映像記録だけが発見される。この映画は100時間に及ぶその映像を再編集したものである……。という体裁のモキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)だが、ドキュメンタリー映画らしさという点でまったくリアリティに欠け、見ていて最初から最後まで白けてしまった。例えば「この映画は発見された映像だけで構成されている」と言った途端に、画像データの入ったザックを回収する場面が出てくる。このシーンはどう考えても、発見されたデータの中にはないよね。また映画の最後には、データ入りのHDDを厳重に梱包して川に流すシーンが出てくる。でもこの映像は流してしまったザックの中には入っていないわけだから、いったいどこからどうやって発見されたんだろうか。内容もくだらない親子の対立と確執を延々見せられたりして、100時間もビデオがあるならもっと恐竜をたくさん見せろっての。恐竜を見せずに、ずっとカメラに向かって語りかけ続ける絵が続くのもおかしいだろう。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』や『パラノーマル・アクティビティ』、『REC』など、この手の映画には成功作がいくつもある。だがこの映画は、そうした先行事例にまったく学んでいないのだ。

(原題:The Dinosaur Project)

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2013.01.15

映画|八月の鯨

Hachibatsunokujira 日本では1988年に岩波ホールで公開され、ミニシアターブームの中で大ロングランを記録した作品。今回は日本公開時の字幕を再現し、画面サイズはスタンダードでの上映。これはIMDbを見るとアスペクト比が1.85:1(アメリカンビスタ)になっていて、昨年発売されたDVDは1.78:1(ハイビジョンサイズ)になっている。本来の画面サイズが何なんだかよくわからないが、たぶんスタンダードで撮影して上下マスクかけてビスタ。日本公開版はマスクなしなのだろうか。いずれにせよスタンダードサイズでこの映画が観られる機会はそうそうなさそうだが、舞台劇風に人物が出入りし(原作は舞台劇なのだ)、ベテラン俳優たちのしっとりした芝居を積み重ねていく作りは、テレビ映画みたいだなぁ……と思ったりはする。俳優たちの演技が素晴らしいのはよくわかるが、映画のテーマである老いの問題が僕にはまだぴんと来ない。直前に『草原の椅子』を観ていて、その50歳の男たちはよくわかったのだが、『八月の鯨』は僕にはまだだいぶ距離がある映画だった。リリアン・ギッシュはこの映画の完成時に89歳。それでもグリフィスの映画に出ていた頃の面影がまだ片鱗として残っている、じつにチャーミングなおばあちゃまでした。

(原題:The Whales of August)

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映画|草原の椅子

Sogennoisu 宮本輝の同名小説を成島出監督が映画化したドラマ作品。佐藤浩市扮する主人公がカメラメーカーの社員で、その親友がカメラ販売店の社長という設定。主人公が想いを寄せる女性が新しくカメラを買って、主人公との距離が縮まっていく。いろいろなところで、カメラが重要な役回りを果たす作品。劇中に登場するカメラは、主人公が若いカメラマンにプレゼントしたのがキヤノンのF-1。主人公が使っているのは一眼レフで、ストラップを見る限りではキヤノンのEOSのようだ。ヒロインが使っているのはオリンパスのPEN(当然デジタル版)。カメラ屋の社長が使っているのは、RICOHのような気もするけど、機種まではよくわからなかった。そのうちカメラ雑誌に記事が出るかも(既に出ているかな)。この映画を観ていると、カメラを持ってどこか遠くに旅行に出かけたくなる。ドラマ作品としてもなかなか面白かった。50歳という年齢は僕にとってもすぐ近くに迫っている年齢で、ぜんぜん他人事じゃないのだ。古瀬美智子はこういうちょっと影がある役が似合うね。

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