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2013.07.31

映画|黒いスーツを着た男

13073102 働いている自動車ディーラーの社長令嬢と10日後に結婚する主人公は、同僚たちと独身最後のバカ騒ぎをした帰りに車で人をはねてしまう。とっさに逃げてしまったが、この事故には目撃者がいた……。

 主人公たちは誰も悪人ではない。だが、誰も正しい人間ではない。黒と白の間のグレーの領域を漂いながら、それでも真面目に、誠実に生きようとしてきた人たちが、ひとつの交通事故で結びつけられる。事故の一件を使って主人公を脅迫しようとする人もいなければ、死んだ男のために血の復讐をしようとする者もいない。そうしたものを出さないところにこの映画のリアリズムがあるのだが、しかしそれはわかりやすいサスペンスを否定するということでもある。

 『人は、たとえ全世界を手に入れても、自分の命を失ったら、何の得があろうか。自分の命を買い戻すのに、どんな代価を支払えようか』(マタイ16:26)。このテーマの映画は山ほどあるのだが、この映画もそんな作品の中の1本。しかし結末はちょっと意外なものだった。

(原題:Trois mondes)

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映画|ジェリー・フィッシュ

13073101 新潮社主催の「女の女のためのR-18文学賞」で受賞の最終候補になったという雛倉さりえの同名短編小説を、思春期の女の子描写には定評のある金子修介監督が映画化。

 主演の花井瑠美と大谷澪はどちらも映画初出演に近くて演技は拙い。台詞のすきまからキャラクターの感情が見えない、ぼんやりとした語りだ。しかしその演技のぎこちなさや頼りなささえも、思春期の少女の恋愛に対するぎこちなさや、存在の頼りなさなどに重ね合わせていくため、ここでは演技が拙いことがマイナスになっていない。この手は何度も使えるわけではないのだが、少なくともこの映画ではうまくツボにはまって抜群の効果を生み出している。

 彼女たちが周囲に溶け込めない、浮いた存在であること自体が、この映画においてはひとつの財産なのだ。

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2013.07.29

映画|最愛の大地

13072901 アンジェリーナ・ジョリーの初監督作で、脚本と製作も彼女自身が行っている。ボスニア紛争直前に出会って恋に落ちたセルビア人の青年警官とムスリム人の女性画家が、戦時中に再会したことで起きる悲劇。再会しなくても戦争は悲劇なのだが、再会したことで彼らの人間関係はずたずたにひき裂かれてしまう。いや、再会しなくてもどのみち人間関係は破壊し尽くされてしまうのかもしれないが……。ボスニア紛争についての映画は何本も作られ公開されているため、僕はそのたびにWikipediaなどで紛争の概略を調べ直す。でも何度調べても、やっぱりよくわからない。これは一度、ちゃんと本を読んで勉強した方がよさそうだな。アンジェリーナ・ジョリーはこの映画で、紛争の中で起きた女性に対する性暴力を大きくクローズアップしている。20世紀の終わりになって、こんなことが平気でまかり通っていたことに驚くしかないのだが、戦争というのはそもそもがそういうものなのかもしれない。

(原題:In the Land of Blood and Honey)

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2013.07.26

映画|恋の渦

13072602 劇団ポツドールの同名舞台作品を、原作者である三浦大輔本人が脚色した辛辣なラブコメディ。コメディ……なのだろうか。たぶんコメディ……なんだろうな。導入部で登場人物全員を狭い部屋に集めてしまうのだが、その後はドロドロの愛欲模様。こうした群像劇ではたいてい誰かひとりぐらいは「この人が好きだ」とか「この人は俺に似ている」という人物がいるものなのだが、僕は登場人物たちの誰も好きになれないし、誰にも感情移入できない。しかし出てくるエピソードにはいちいち「こういうことって、あるよなぁ」とうなずいてしまう困った状態になってしまった。映画を観ていてとても不快だ。激しく不快感を覚える。それは出てくる不愉快なエピソードの多くに、自分なりに心当たりがあるからかもしれない。登場人物たちの多くが破滅的な結末を迎える中で、映画の最初にカップルになったブス女(失礼な言い方だが映画の中でそういう役なのだ)と冴えない男は、何となく今後もうまく続いていくんじゃないだろうか。割れ鍋に綴じ蓋。まあ、男女の仲なんてそんなもんだよな。

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映画|HOMESICK ホームシック

13072601 勤務先の会社がつぶれ、住んでいる家も再開発で取り壊しが決まって引き渡しが間近に迫っている状況の中で、行くあてのない男が近所の子供たちと一緒に過ごす夏の日を描く。彼は自分の家に住んではいるが、不法占拠者でありホームレスなのだ。正直この主人公にはまったく共感も感情移入もできないのだが、それよりよくわからないのが、主人公を家から追い出す側に立つかつての同級生の女だ。地元に残り続けた主人公に対して、早々に地元を去って優良企業に勤務しているわけだが、この対比の意図がわかりにくい。この女が事あるごとに主人公を笑うのだが、その笑いの意味もわからない。演じている女優の芝居が曖昧なのだ。もう少し力のある女優が演じていれば、この役の意味合いはまったく違ったものになっただろう。それに比べると、子役たちの芝居はとてもいい。じつに自然だ。

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2013.07.25

映画|マリリン・モンロー 瞳の中の秘密

13072503 新たに発見されたマリリン・モンロー本人のメモ書きをもとにしたドキュメンタリー映画。映画の中でも述べられているが、彼女について語る人は多く、本も書かれすぎている。語る人ごとに、書く人ごとにまったく違うマリリン・モンロー像が描かれるため、彼女についての印象も人それぞれだ。この映画では残されていたメモ書きから、マリリン・モンロー本人に自分の人生を、生き方の哲学を、悩みを、苦しみを、葛藤を語らせようとしている。ハリウッド映画で活躍する有名女優たちが、それぞれの言葉と肉体を通してマリリン・モンローになりきり、マリリン・モンローの肉声を蘇らせる。関係者のインタビューなどもあるが、それはマリリンの言葉を肉付ける二次的な素材に過ぎない。この映画の主役は、マリリン・モンロー本人なのだ。ただし全体の構成は従来のマリリン・モンロー像を大きく抜け出すものではなく(そもそも彼女について新たに語るべきものはほとんどないのだ)、映画を観ても新しい発見が何かあるわけではないが、ドキュメンタリー映画の作り方としては新鮮なものだったと思う。

(原題:Love, Marilyn)

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映画|月の下まで

13072502 自閉症の息子を抱えた漁師の男。妻は数年前に家を出て行ったまま戻らない。家の仕事や息子の世話は年老いた母親に任せきりだった。その母親が、急に亡くなってしまう。手のかかる息子を抱えて、男は思うように漁にも出られない。買って間もない船のローンはまだたっぷり残っている。男は精神的に追い詰められていく。高知新聞の記者だった奥村盛人監督の長編デビュー作。高知県を舞台にしたローカルムービーで、先行上映されている高知ではとても評判がいいとのこと。ローカルムービーはたくさん作られているが、本当に「ローカル」を感じさせる映画はあまりない。でもこの映画はちゃんと、その地方・地域の匂いがするような気がする。だからこそ、この映画は地元高知で受けているのだと思う。

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映画|地獄でなぜ悪い

13072501 刑務所から出所してくる妻に、娘の主演映画をプレゼントしようとするやくざの組長が、自主製作映画のスタッフたちと一緒に本物の抗争をそのまま映画化しようとする話。映画の冒頭から床一面の血糊。鮮血が頭上からシャワーのように降り注ぐスプラッタ描写。クライマックスでは戦う男たちの腕が飛び、足が飛び、首が飛び、銃撃で片っ端から人間たちが蜂の巣になって、血糊が所狭しとまき散らされる。園子温の映画だと、『自殺サークル』で女子高生たちが電車に飛び込むシーンの血糊の量も凄まじかったが、今回の映画はその何十倍だろう。それでいて、これは荒唐無稽なコメディなのだ。スプラッターはスラップスティック。長谷川博己のハイテンションぶりがすごい。堤真一がヘン顔で笑わせるのにも参った。やくざ映画のパロディであり、映画への偏愛がぎっしり詰まった作品であり、権力への不信をあらわにした作品でもある。2時間10分は長いか短いか。まあ『愛のむきだし』は4時間近くあったわけで、それに比べればぜんぜん短いわけだけど……。

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2013.07.24

映画|ストラッター

13072403 全編モノクロの青春映画。恋人に振られたロック青年が、バンド仲間や、友人たちや、母親の恋人や、恋敵の男などとすったもんだの末に、新しい恋人と結ばれてめでたしめでたし……という単純明快なストーリー。小規模な低予算映画だが、物語はともかく、出演している役者たちの面構えがいい、硬質なモノクロ映像よし、音楽よしで、なかなかいいムードなのだ。劇中には主人公たちが自主映画を撮ったり、PVを録ったりするシーンも出てきて、これは「映画についての映画」でもある。自主映画やPVを8ミリや16ミリで撮影しているというのも、今となってはかなりマニアックだなぁ。ガールフレンドが働いているのがサイレント映画専門映画館というのも同じ。サイレント専門館は日本でも作ってくれないかなぁ。無理か。日本映画に限ると、作品がほとんど残ってないもんね。

(原題:Strutter)

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映画|ハンナ・アーレント

13072402 良いことをする人は善人で、悪いことをするのは悪人だ。我々は子供の頃から、素直に、素朴に、そう信じてきた。だが「イェルサレムのアイヒマン」を書いた政治哲学者のハンナ・アーレントは、それは間違いだと言う。ナチスの戦犯アイヒマンは、なぜユダヤ人の大量殺戮を平然と行えたのか。それは彼が悪人だったからではない。彼はただ自分の仕事に忠実なだけだった。彼は自分の仕事が、どんな結果を生み出すのかも知っていた。だがそれはもはや、彼の仕事の管理下にはない。彼の仕事はユダヤ人たちを貨車に乗せて旧姓収容所に送ることだけで、その後のことは知ったことではないのだ。こうした悪を、アーレンとは「凡庸な悪」と呼び、これこそが人類史上もっとも巨大な悪だと言った。だがアーレントのこの意見は、当時の人々にはほとんど理解されない。世間の人々にとって、アイヒマンは血も涙もない極悪人でなければならかった。それを「平凡な男」と言ったアーレントは、「アイヒマンをかばっている」「ナチスを擁護している」と社会全体から袋だたきにされる。だがどうだろう。現在の我々はこうした「凡庸な悪」を身近に見てよく知っているのではないだろうか。原発事故後の政府と電力会社の振る舞いはどうだろう。沖縄を巡る政治家たちの振る舞いはどうだろう。そこにはアイヒマンと同じ「凡庸な悪」がうごめいている。

(原題:Hannah Arendt)

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