映画|黒いスーツを着た男
働いている自動車ディーラーの社長令嬢と10日後に結婚する主人公は、同僚たちと独身最後のバカ騒ぎをした帰りに車で人をはねてしまう。とっさに逃げてしまったが、この事故には目撃者がいた……。
主人公たちは誰も悪人ではない。だが、誰も正しい人間ではない。黒と白の間のグレーの領域を漂いながら、それでも真面目に、誠実に生きようとしてきた人たちが、ひとつの交通事故で結びつけられる。事故の一件を使って主人公を脅迫しようとする人もいなければ、死んだ男のために血の復讐をしようとする者もいない。そうしたものを出さないところにこの映画のリアリズムがあるのだが、しかしそれはわかりやすいサスペンスを否定するということでもある。
『人は、たとえ全世界を手に入れても、自分の命を失ったら、何の得があろうか。自分の命を買い戻すのに、どんな代価を支払えようか』(マタイ16:26)。このテーマの映画は山ほどあるのだが、この映画もそんな作品の中の1本。しかし結末はちょっと意外なものだった。
(原題:Trois mondes)
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